交通事故慰謝料の「内訳」教えて!相場・金額は基準で決まる?
交通事故の被害に対して支払われる慰謝料(=損害賠償)は、治療費や休業期間中の収入補償などさまざまな損害の項目を合計したものになります。
本記事では「損害項目の合計の内訳」について解説していきたいと思います。
交通事故の慰謝料(=損害賠償)内訳|複数の損害項目の総額?
交通事故の慰謝料(=損害賠償)は、さまざまな損害項目を合計したものになります。被害を受けた方ごとに損害の項目は異なりますが、どのような方でも共通して損害を受ける主な項目を紹介します。
内訳 | 意味 | |
---|---|---|
① | 入院・通院慰謝料 | 交通事故の怪我の治療で受けた精神的苦痛に対する慰謝料 |
② | 休業補償 | 交通事故の怪我で休業した期間に収入が減額した分の補償 |
③ | 主婦手当 | 交通事故の怪我で家事業ができなかった期間に対する補償 |
④ | 交通費 | 交通事故の怪我の治療のために通院にかかった費用 |
⑤ | 治療費 | 交通事故の怪我の治療にかかった費用 |
⑥* | 後遺障害慰謝料 | 後遺障害を負ったことで受けた精神的苦痛に対する慰謝料 |
逸失利益 | 後遺障害を負ったことで将来的な収入が減額した分の補償 |
* 後遺障害等級の認定が必要
大まかにはこのような損害を合計したものが交通事故の慰謝料としてあつかわれることになります。
では、ここからは内訳の一つ一つの項目について確認していきたいと思うのですが…交通事故の慰謝料を算定するにあたっての基礎知識として「3つの基準|自賠責基準/任意保険基準/弁護士基準」について簡単におさえておきたいと思います。
交通事故慰謝料の算定で用いられる3基準
これから紹介する交通事故慰謝料の算定に用いられる基準は、各内訳の解説で何度も登場します。相場を知るうえで重要な基礎情報となりますので、しっかり押さえていきましょう。
3基準
交通事故慰謝料の算定で用いる基準
自賠責基準 | 自動車損害賠償保障法の法律で設定された基準。最低限度の補償が目的であるため基準としては最も低い。 |
---|---|
任意保険基準 | 任意保険会社が独自に設定した基準。自賠責基準に比べるとすこし高い基準。 |
弁護士基準 | 過去おこなわれた裁判例から決められた基準。3基準のなかで最も高い基準。 |
以上が3つの基準の概要です。
3つの基準についてさらに詳しくは、以下の関連記事で確認してみましょう。
<関連記事>基準について
ここからは交通事故慰謝料の内訳を一つずつ確認して、相場観をつかんでいきましょう。
交通事故慰謝料の内訳①「入院・通院慰謝料」相場。どう計算する?
入院・通院慰謝料は、3基準のうちどれを用いて算定するかで金額に開きが出ることになります。それぞれの基準でどのように入院・通院慰謝料が算定されるのかみていきたいと思います。
自賠責基準|入院・通院慰謝料の相場
自賠責保険における入院・通院慰謝料は、一日あたりの日額を決めて入院・通院した日数で計算するのが基本的な考え方です。日額は4,200円として計算します。
慰謝料の計算方法
いずれか金額が少ないほうが採用される
- {入院日数 + (実通院日数 × 2)}× 4,200円
- {入院日数 + 通院期間}× 4,200円
任意保険基準|入院・通院慰謝料の相場
任意保険基準における入院・通院慰謝料は、各保険会社で基準が異なります。もっともかつての共通基準がいまだに用いられているのではとも言われているので、ここでは旧任意保険支払基準を紹介します。
* ひと月は30日とする
弁護士基準|入院・通院慰謝料の相場
弁護士基準における入院・通院慰謝料は、交通事故の訴訟で認められた金額が掲載されている「赤本(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準)」を参考に算定されます。弁護士基準においては怪我の重症度に応じて重症/軽症の2つの基準が使い分けられています。
* ひと月は30日とする
〈関連記事〉入院・通院慰謝料について
交通事故慰謝料の内訳②「休業補償」相場。職業別で計算方法が違う?
休業補償は、自賠責基準あるいは任意保険・弁護士基準のいずれかで算定されることになります。
基本的な考え方としては、一日当たりの損失を休業した実際の日数分で補てんするというものになります。注目すべき点は、2つの基準において一日当たりの損失(日額)をどうとらえるかということになります。ではそれぞれの基準をみていきましょう。
自賠責基準|休業補償の相場
自賠責基準では日額を一律5,700円として計算されるのが基本です。
自賠責基準の計算式
基礎算定日額(5,700円) × 実休業日数
5,700円を超える損害であることを証明できれば、19,000円まで日額の増額が見込めます。
任意保険・弁護士基準|休業補償の相場
任意・弁護士基準では日額を事故前の収入から割り出して計算されるのが基本です。
任意・弁護士基準の計算式
算定基礎日額(事故前の収入) × 実休業日数
自賠責基準の日額の最高額19,000円よりも収入が多い人は、こちらの基準で計算することで損なく休業補償を請求することが可能になります。
<関連記事>休業補償について
交通事故慰謝料の内訳③「主婦手当」相場。家事従事者の休業補償?
先ほど解説した休業補償は、実際の収入がある方を前提とした補償です。しかし、交通事故の慰謝料においては、実際の収入がないような方でも休業補償を請求できる場合があります。それが「主婦手当」と呼ばれる補償です。主婦(主夫)のような家事従事者は実際の給与は発生していませんが、家事ができないことは経済的な損失と考えられています。
主婦手当は休業補償の一種ともいえるので、自賠責基準あるいは任意保険・弁護士基準のいずれかで算定されることになります。主婦手当の算定においても日額をどうするのかがポイントになってきます。2つの基準で算定にどのような違いがあるのかみていきましょう。
自賠責基準|主婦手当の相場
自賠責基準では日額を一律5,700円として計算されるのが基本です。
自賠責基準の計算式
基礎算定日額(5,700円) × 実休業日数
休業補償と異なるのは、主婦の場合は実際の収入がありません。したがって日額5,700円を超すという証明ができません。主婦手当が自賠責基準で算定される場合は、日額5,700円で固定されてしまい、19,000円まで増額される可能性がないことに注意しなければなりません。
任意保険・弁護士基準|主婦手当の相場
弁護士基準では日額を女性の平均賃金から算定するのが基本です。女性の平均賃金は賃金センサスから確認することができます。
任意保険・弁護士基準の計算式
算定基礎日額(賃金センサスによる女性の平均賃金÷365日) × 実休業日数
ここ数年の女性の平均賃金による日額は「約1万円」が目安とされています。
<関連記事>主婦手当について
交通事故慰謝料の内訳④「交通費」相場。実費相当が請求対象?
交通費に関しては、3基準で算定されるのではなく実際にかかった費用そのものを請求することになります。
交通費の請求は実費として考える
交通費の請求は、通院の際に必要になった実費分の費用を請求します。
もっとも、実費の範囲内で必要かつ妥当な金額であることが原則となっています。
交通手段別の交通費算出方法
交通手段別にバス・電車/自家用車/タクシーそれぞれで、交通費の算出方法を簡単にみていきたいと思います。
バス・電車
バスや電車といった公共交通機関の場合、
▶自宅の最寄~病院の最寄までの運賃 × 通院日数
で交通費を算定します。
自家用車
自家用車の場合は、ガソリン代を1kmあたり15円として
▶自宅~通院先までの往復距離 × 1kmあたり15円 × 通院日数
で交通費を算定します。
タクシー
タクシー代は、実際に支払った分を領収書で証明して金額を請求します。
もっとも、タクシーの利用が認められるのは、
- 足を骨折して最寄りまで行くのが大変
- 高齢者のため公共機関の乗り降りが辛い
- 一日のなかで本数が少ないなど交通の便が悪い
などこのような点から、タクシーの利用が必要かつ妥当である場合となっています。
請求に必要な通院交通費明細書
交通費を請求する際は、通院交通費明細書の作成が必要です。参考に自賠責保険における通院交通費明細書の書式を紹介します。以下のリンクよりご確認ください。
基本的にはこのような指定書式にしたがって記入すれば問題ないでしょう。
争いになりやすい交通費とは?
交通費は通院にかかったものを前提としています。したがって通院以外にかかった交通費は争いになりやすいことになるようです。
交通事故にあったことで
- 怪我の影響で通勤ルートを変えざるを得なくなった
- 交通事故で車が使えなくなったのでバスで通勤することになった
などこのような交通費は必要で妥当な範囲の費用であると証明できなければ認められる可能性が低くなってしまいます。
<関連記事>交通費について
交通事故慰謝料の内訳⑤「治療費」相場。実費分の請求が基本?
治療費に関しては、3基準で算定されるのではなく実際にかかった費用そのものを請求することになります。
治療費を支払うのは相手方保険会社が一般的
一般的に交通事故の怪我の治療にかかった費用は、事故の相手方が加入している任意保険会社が支払ってくれることになります。交通事故の慰謝料は、さまざまな損害項目を算定することで金額が決まるのですが、損害項目によっては算定時期が異なります。かといってすべての算定が終わってから治療費を受け取ることになると、治療後に都度支払う治療費をご自身で立て替えることになってしまいます。
治療の内容によっては費用が高額になることもあるので、任意保険会社が損害賠償金の一部を先払いする形で代わりに病院に支払ってくれることになるでしょう。
自分で治療費の立替が必要なケース
場合によっては、ご自身で治療費の立て替えが必要なケースがあります。
- 交通事故の相手方が任意保険に加入していない
- ご自身の過失割合が高い
- 治療費が保険会社から打ち切られた後も治療をつづけたい
このような場合では、ご自身で治療費を立て替えなければならない可能性が考えられます。
治療費を立て替えた分の請求方法
立て替えた分の治療費は、事故の相手側(本人・任意保険会社)に対して請求していくことになります。請求する際には、
- 診断書
- 診療報酬明細書
といった書類が必要になります。特に明細書はなくさないように大切に保管しておいてください。
<関連記事>治療費について
交通事故慰謝料の内訳⑥「後遺障害慰謝料・逸失利益」相場。等級に左右?
後遺障害等級に応じて後遺障害慰謝料・逸失利益が請求可能
交通事故の怪我によって後遺障害が残った場合、後遺障害慰謝料・逸失利益を後遺障害等級に応じて請求することができるようになります。
<関連記事>後遺障害について
後遺障害慰謝料は後遺障害等級1~14級ごとに慰謝料の金額が決められていますが、基準ごとに設定金額が異なります。
逸失利益は「基礎収入 × 労働能力喪失率 × 中間利息控除」の計算式で計算されるのですが、労働能力喪失率は後遺障害等級1~14級ごとに割合が決められています。
後遺障害慰謝料と逸失利益は3基準のうちどれを用いて算定するかで金額に開きが出ることになります。それぞれの基準でどのように後遺障害慰謝料と逸失利益が算定されるのかみていきたいと思います。
自賠責基準|後遺障害慰謝料・逸失利益の相場
自賠責基準における等級ごとの
- 後遺障害慰謝料
- 逸失利益の算定に必要な労働能力喪失率
を確認していきます。
自賠責基準
介護を要する後遺障害等級(別表1)
慰謝料 (万円) |
労働能力喪失率 (%) |
|
---|---|---|
1級 | 1600 | 100 |
2級 | 1163 | 100 |
自賠責基準
後遺障害等級(別表2)
慰謝料 (万円) |
労働能力喪失率 (%) |
|
---|---|---|
1級 | 1100 | 100 |
2級 | 958 | 100 |
3級 | 829 | 100 |
4級 | 712 | 92 |
5級 | 599 | 79 |
6級 | 498 | 67 |
7級 | 409 | 56 |
8級 | 324 | 45 |
9級 | 245 | 35 |
10級 | 187 | 27 |
11級 | 135 | 20 |
12級 | 93 | 14 |
13級 | 57 | 9 |
14級 | 32 | 5 |
任意保険基準|後遺障害慰謝料・逸失利益の相場
任意保険基準における等級ごとの
- 後遺障害慰謝料
- 逸失利益の算定に必要な労働能力喪失率
を確認していきます。
任意保険基準
後遺障害等級
慰謝料 (万円) |
労働能力喪失率 (%) |
|
---|---|---|
1級 | 1900 | 100 |
2級 | 1500 | 100 |
3級 | 1250 | 100 |
4級 | 950 | 92 |
5級 | 750 | 79 |
6級 | 600 | 67 |
7級 | 500 | 56 |
8級 | 400 | 45 |
9級 | 300 | 35 |
10級 | 200 | 27 |
11級 | 150 | 20 |
12級 | 100 | 14 |
13級 | 60 | 9 |
14級 | 40 | 5 |
旧任意保険の支払基準です。現在は各保険会社ごとの基準が設定されているので目安としてご確認ください。
弁護士基準|後遺障害慰謝料・逸失利益の相場
弁護士基準における等級ごとの
- 後遺障害慰謝料
- 逸失利益の算定に必要な労働能力喪失率
を確認していきます。
弁護士基準
後遺障害等級
慰謝料 (万円) |
労働能力喪失率 (%) |
|
---|---|---|
1級 | 2800 | 100 |
2級 | 2370 | 100 |
3級 | 1990 | 100 |
4級 | 1670 | 92 |
5級 | 1400 | 79 |
6級 | 1180 | 67 |
7級 | 1000 | 56 |
8級 | 830 | 45 |
9級 | 690 | 35 |
10級 | 550 | 27 |
11級 | 420 | 20 |
12級 | 290 | 14 |
13級 | 180 | 9 |
14級 | 110 | 5 |
<関連記事>後遺障害慰謝料・逸失利益について
まとめ
交通事故の慰謝料(=損害賠償)は、一概に相場は決まっていません。
- 入院・通院慰謝料
- 休業補償
- 主婦手当
- 交通費
- 治療費
- 後遺障害慰謝料
- 逸失利益
などさまざまな損害を合計したものが、交通事故慰謝料の内訳となります。
どのような内訳で構成されているのか知ることで交通事故の慰謝料の請求漏れの可能性を低くすることができると思います。
慰謝料の内訳・相場・金額のQ&A
交通事故の慰謝料などの損害賠償にはどんなものがある?
損害賠償項目は、入院・通院慰謝料、休業損害、主婦手当、交通費、治療費、後遺障害慰謝料、逸失利益などがあげられます。もっとも、後遺障害慰謝料・逸失利益を請求するには後遺障害等級の認定を受けている必要があります。
入院・通院慰謝料の相場はどう計算する?
自賠責保険における入院・通院慰謝料は、日額を4200円として入院・通院した日数で計算するのが基本的な考え方です。任意保険基準における入院・通院慰謝料は、各保険会社で基準が異なります。弁護士基準における入院・通院慰謝料は、交通事故の訴訟で認められた金額が掲載されている「赤本(民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準)」を参考に算定されます。
休業補償はどう計算する?
自賠責基準では日額を一律5700円として計算されるのが基本です。実際の損害が5700円を超えていることを証明できれば、19000円まで増額が見込めます。任意・弁護士基準では日額を事故前の収入から割り出して計算されるのが基本です。自賠責基準の日額の最高額(19000円)よりも収入が多い人は、任意保険または弁護士基準で計算することで損なく休業補償を請求できます。
後遺障害等級は慰謝料や逸失利益に関係する?
後遺障害慰謝料は後遺障害等級1~14級ごとに慰謝料の金額が決められていますが、基準ごと(自賠責基準/任意保険基準/弁護士基準)に設定金額が異なります。逸失利益は「基礎収入 × 労働能力喪失率 × 中間利息控除」の計算式で計算されるのですが、労働能力喪失率は後遺障害等級1~14級ごとに割合が決められています。