交通事故[後遺障害慰謝料・逸失利益]相場は後遺障害等級で決まり?
交通事故の損害に対する慰謝料(=損害賠償)は、
- 怪我の治療費用、リハビリ費用
- 怪我の治療期間の休業補償
- 後遺障害に対する慰謝料、将来的な収入減に対する補償
などさまざまな損害項目を合計したものとなります。その中で本記事は「後遺障害慰謝料・逸失利益」について解説していきたいと思います。後遺障害慰謝料と逸失利益は、後遺障害等級に認定されることで請求が可能となります。
後遺障害等級の認定について詳しくはこちらの「後遺障害等級と3基準」の記事をご覧ください。
後遺障害認定で請求できる損害①後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは?症状に応じた慰謝料の金額
後遺障害等級が認定されると、後遺障害慰謝料を請求することができます。
後遺障害慰謝料
交通事故の怪我を治療しても完治せず、労働能力が低下または喪失するような何らかの障害が残ったことに対する慰謝料 |
交通事故で怪我を負ったら怪我の痛みだけでも辛いのに、障害が残ることになってしまったらその辛さを一生にわたって感じつづけなければならないことになります。このような障害が残ったことに対する精神的な苦痛として後遺障害慰謝料は支払われることになります。
<関連記事>後遺障害等級の障害の内容について
後遺障害等級は1級~14級まで、後遺障害の症状に応じて区分されています。後遺障害慰謝料は、この等級に応じて慰謝料の金額が設定されています。
後遺障害慰謝料の金額
後遺障害等級1~14級それぞれに設定された金額で支払われる
等級に応じて慰謝料の金額が設定されているとは言うものの、算定に使われる基準が3つある点に注意が必要になります。後ほど基準の種類の解説をまじえて、慰謝料の金額もあわせて確認しておきたいと思いますので最後までご確認ください。
後遺障害認定で請求できる損害②逸失利益
逸失利益とは?
後遺障害等級が認定されると、逸失利益を請求することができます。
逸失利益
交通事故の怪我を治療しても完治せずに何らかの障害が残ったことにより労働能力が低下または喪失したことで、将来的に得られなくなった収入の減額分に対する補償 |
交通事故の怪我で障害が残ってしまったら、今までと同じように働くことがむずかしくなることが考えられ、収入が減ってしまう可能性があります。交通事故にあわなければ将来的に得られたであろう収入を補償するために逸失利益は支払われることになります。
これは死亡事故の場合も同様の考えのもと逸失利益を請求することができます。死亡事故における逸失利益をふくむ慰謝料について詳しくは関連記事をご覧ください。
<関連記事>死亡事故の慰謝料について
逸失利益の算定方法|労働能力喪失率と等級の関係
逸失利益の算定方法は、基本となる計算式に則って算定されることになります。
逸失利益の計算方法
基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
式を見ただけではいまいちつかめないと思います。つづいては、計算式に使われる項目について解説していきます。
算定項目①基礎収入
基礎収入は、後遺障害が残らなければ得られたであろう収入をさします。原則、事故前の実際の収入を基本として考えられます。もっとも、実際の収入がないような主婦や学生といった方でも逸失利益は認められています。
基礎収入に関しては職業ごとに求め方が異なるので、職業別に確認しておきます。
職業別
基礎収入の求め方
給与所得者 | 月収 × 12ヶ月 + 特別賞与 |
---|---|
自営業者 | 事故前年の確定申告に基づく所得金額+青色申告控除額 |
主婦 | 賃金センサスによる女性の平均賃金 |
学生 | 原則、賃金センサスの男女別全年齢平均賃金 |
* 現状、税金は控除しない金額としてあつかわれる
一方、収入といっても逸失利益の基礎収入に該当しないものもあることが分かりました。
注意
基礎収入に該当しない収入
・年金
・不動産所得 ・株式配当 |
いわゆる不労所得といわれる収入は基礎収入に該当しないようです。後遺障害が残ったとしても、収入に影響を与えないとの考えからこのような収入は基礎収入には含まれません。
算定項目②労働能力喪失率
労働能力喪失率とは、後遺障害の影響で労働能力を低下または喪失したことによる減収割合を数値化したものです。後遺障害等級に応じて労働能力喪失率は規定されています。
労働能力喪失率 (%) |
|
---|---|
1級 | 100 |
2級 | 100 |
3級 | 100 |
4級 | 92 |
5級 | 79 |
6級 | 67 |
7級 | 56 |
8級 | 45 |
9級 | 35 |
10級 | 27 |
11級 | 20 |
12級 | 14 |
13級 | 9 |
14級 | 5 |
労働能力喪失率はあくまで基準を示したにすぎません。実際にどれくらいの労働能力が喪失したのかは、交通事故の慰謝料を算定する際に争点となることが多いです。話し合い(示談)の結果として、表で示した通りの基準からは前後してしまう可能性があります。
算定項目③労働能力喪失期間
労働能力喪失期間は、後遺障害が残らなければ働くことができたであろう期間をさします。原則、定年をむかえる67歳を限度として症状固定時の年齢を差し引いた期間として考えます。
もっともこのような期間の求め方は原則なので、原則にあてはまらない例外の方もいらっしゃいます。
ケース別
労働能力喪失期間の求め方
原則 | 67歳(定年) ー 症状固定時の年齢 |
---|---|
18歳未満 | 67歳(定年) ー 高校卒業時の年齢 |
大学生 大学院生 |
67歳(定年) ー 大学・大学院卒業時の年齢 |
高齢者 (68歳以上) |
平均余命の2分の1 |
高齢者 (67歳以下) |
以下のいずれか長いほう ・症状固定時から67歳までの年数 ・平均余命の2分の1 |
むち打ち | 後遺障害等級 ・14級9号:5年程度 ・12級13号:10年程度 |
これらはあくまで目安なので、必ずしもこのように労働能力喪失期間が認められるわけではありません。個別の事情や状況に応じて総合的に判断されることになります。
算定項目④ライプニッツ係数
ライプニッツ係数とは、逸失利益から中間利息を控除した状態にすることを目的としています。一括で交通事故の慰謝料を受け取ったために、資産運用による利息分を得てしまうことになるからです。交通事故がなければ本来、発生し得なかった利息まで含めてしまうと損害賠償を支払う側と受け取る側で不公平感が出てしまいます。このような点を調整し、一時金として換算するためにライプニッツ係数が用いられます。
労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数は、年数に応じて具体的な係数が定められています。一部抜粋して紹介します。
労働能力喪失期間 | ライプニッツ係数 |
---|---|
1年 | 0.9524 |
2年 | 1.8594 |
3年 | 2.7232 |
4年 | 3.546 |
5年 | 4.3295 |
6年 | 5.0757 |
7年 | 5.7864 |
8年 | 6.4632 |
9年 | 7.1078 |
10年 | 7.7217 |
20年 | 12.4622 |
30年 | 15.3725 |
*一部抜粋
逸失利益はこのような算定項目から計算されることになります。
後遺障害慰謝料・逸失利益の算定で用いられる3基準
後遺障害慰謝料と逸失利益は、後遺障害の等級に応じて決められた基準から算定されることになります。ただ、この基準というのはこの世に3つ存在しており、どの基準を使って算定するかで得られる金額に大きな違いが出てくることになります。
3基準
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士基準
これらの基準について簡単に述べるなら、最も高い後遺障害慰謝料が得られるのは弁護士基準を用いて算定するということです。
これら3つそれぞれの基準を確認して、等級ごとの相場の違いを確認していきたいと思います。
自賠責基準の「後遺障害慰謝料・逸失利益」相場
自賠責基準の早見表(1~14級)
自賠責基準における「後遺障害慰謝料」と逸失利益の算定に必要な「労働能力喪失率」について、等級ごとに早見表を確認してみます。
自賠責基準においては、
- 介護を要する後遺障害等級(別表1)
- 後遺障害等級(別表2)
に分けて基準が設定されているので注意が必要です。
自賠責基準
介護を要する後遺障害等級(別表1)
慰謝料 (万円) |
労働能力喪失率 (%) |
|
---|---|---|
1級 | 1600 | 100 |
2級 | 1163 | 100 |
自賠責基準
後遺障害等級(別表2)
慰謝料 (万円) |
労働能力喪失率 (%) |
|
---|---|---|
1級 | 1100 | 100 |
2級 | 958 | 100 |
3級 | 829 | 100 |
4級 | 712 | 92 |
5級 | 599 | 79 |
6級 | 498 | 67 |
7級 | 409 | 56 |
8級 | 324 | 45 |
9級 | 245 | 35 |
10級 | 187 | 27 |
11級 | 135 | 20 |
12級 | 93 | 14 |
13級 | 57 | 9 |
14級 | 32 | 5 |
<関連記事>自賠責基準について
任意保険基準の「後遺障害慰謝料・逸失利益」相場
任意保険基準の早見表(1~14級)
任意保険基準における「後遺障害慰謝料」と逸失利益の算定に必要な「労働能力喪失率」について、等級ごとに早見表を確認してみます。
任意保険基準
後遺障害等級
慰謝料 (万円) |
労働能力喪失率 (%) |
|
---|---|---|
1級 | 1900 | 100 |
2級 | 1500 | 100 |
3級 | 1250 | 100 |
4級 | 950 | 92 |
5級 | 750 | 79 |
6級 | 600 | 67 |
7級 | 500 | 56 |
8級 | 400 | 45 |
9級 | 300 | 35 |
10級 | 200 | 27 |
11級 | 150 | 20 |
12級 | 100 | 14 |
13級 | 60 | 9 |
14級 | 40 | 5 |
旧任意保険の支払基準をもとに作成しています。現在は各保険会社ごとに基準がもうけられているので参考程度にご確認ください。
<関連記事>任意保険基準について
弁護士基準の「後遺障害慰謝料・逸失利益」相場
弁護士基準の早見表(1~14級)
弁護士基準における「後遺障害慰謝料」と逸失利益の算定に必要な「労働能力喪失率」について、等級ごとに早見表を確認してみます。
弁護士基準
後遺障害等級
慰謝料 (万円) |
労働能力喪失率 (%) |
|
---|---|---|
1級 | 2800 | 100 |
2級 | 2370 | 100 |
3級 | 1990 | 100 |
4級 | 1670 | 92 |
5級 | 1400 | 79 |
6級 | 1180 | 67 |
7級 | 1000 | 56 |
8級 | 830 | 45 |
9級 | 690 | 35 |
10級 | 550 | 27 |
11級 | 420 | 20 |
12級 | 290 | 14 |
13級 | 180 | 9 |
14級 | 110 | 5 |
<関連記事>裁判基準・弁護士基準について
まとめ
後遺障害慰謝料と逸失利益は1~14級までの後遺障害等級に応じて基準が設けられていますが、さらに自賠責基準/任意保険基準/弁護士基準のいずれを用いるかで手に入る金額に大きな違いが出ることが分かりました。
後遺障害慰謝料と逸失利益の正当な慰謝料を得るには、まず後遺障害の症状に応じた適切な等級認定を受けることが一番大切です。特に、逸失利益に関しては将来的に得られたであろう金額を前もって算定することになるので想定の損害額となります。将来的に不釣り合いな損害額とならないように、しっかりと請求することが重要になります。
交通事故の後遺障害慰謝料・逸失利益相場のQ&A
後遺障害慰謝料とはどんなお金ですか?
交通事故で怪我を負ったら怪我の痛みだけでも辛いのに、障害が残ることになってしまったらその辛さを一生感じつづけなければなりません。このような障害が残ったことに対する精神的な苦痛として後遺障害慰謝料は支払われます。後遺障害等級は1級~14級まで、後遺障害の症状に応じて区分されています。後遺障害慰謝料は、この等級に応じて慰謝料の金額が設定されています。
逸失利益とはどんなお金ですか?
交通事故の怪我で障害が残ってしまったら、今までと同じように働くことがむずかしくなることが考えられ、収入が減ってしまう可能性があります。交通事故にあわなければ将来的に得られたであろう収入を補償するために逸失利益は支払われることになります。
逸失利益はどうやって計算できますか?
逸失利益は、<基礎収入 × 労働能力喪失率 × 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数>の計算式で算定できます。基礎収入は、後遺障害が残らなければ得られたであろう収入をさし、原則、事故前の実際の収入を基本として考えられます。労働能力喪失率・労働能力喪失期間の分かりやすい求め方もふくめ、詳細は下記よりご確認ください。
後遺障害慰謝料や逸失利益算定の「基準」があるってホント?
後遺障害慰謝料と逸失利益は、後遺障害の等級に応じて決められた基準から算定されることになります。ただ、この基準というのはこの世に3つ存在しており、どの基準を使って算定するかで得られる金額に大きな違いが出てくることになります。3つの基準とは、① 自賠責基準/② 任意保険基準/③ 弁護士基準とよばれています。