交通事故の死亡慰謝料|学生の計算方法は?逸失利益や事例も解説!
この記事は、高校生以上の学生の方の交通事故死亡慰謝料・死亡逸失利益・葬祭費について書いています。
交通事故で学生の息子さん、娘さんを亡くされた場合、深い悲しみの中でせめて十分な金額の慰謝料・賠償金を支払ってほしいという気持ちもあるかと思います。
十分な金額の慰謝料・賠償金を得るためには、
- ① 死亡事故で請求できる慰謝料・賠償金の種類
- ② 学生の場合の計算方法・相場金額
を把握しておくことが重要です。
加害者側から提示された金額そのものが高額であったとしても、死亡事故の慰謝料・賠償金としては不十分であるという場合もあるからです。
そこでこの記事では、上記の2点について、実際の事例や計算例を交えながら、解説していきます。
交通事故で死亡したら|請求できる慰謝料は?
死亡事故の慰謝料・賠償金の内訳は?
交通事故で学生の方が亡くなられた場合、
- 死亡慰謝料
- 死亡逸失利益
- 葬祭費
を請求することができます。
死亡慰謝料 | 交通事故により死亡した本人・遺族の精神的苦痛に対する補償 |
---|---|
死亡逸失利益 | 死亡しなければ得られたはずの将来の収入に対する補償 |
葬祭費 | 通夜・葬儀などにかかった費用に対する補償 |
逸失利益については、学生の方も事故に遭わなければ将来働いて収入を得たはずだと考えらえることから、請求することができます。
ただし、すでに社会人として働いている方とは違い、実際に社会人になってからどれだけの収入を得られたのかは分かりません。そのため、これくらいの収入を得られていただろうという金額をもとに、死亡逸失利益を算出します。
詳しくは次章で解説していますので、ご確認ください。
また、事故に遭ってからお亡くなりになるまでの間に入通院期間があったり、後遺症が残ったりした場合には、
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 休業損害
- 後遺障害逸失利益
- 治療関係費
も加害者側に請求することができます。
これらの慰謝料・賠償金の金額については、こちらの記事をご覧ください。
慰謝料の3つの基準に要注意
死亡慰謝料・死亡逸失利益の相場額、計算方法を確認する前に、慰謝料の3つの金額基準についてご説明しておきます。
交通事故の慰謝料には、「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」という3つの金額基準があります。
- 自賠責基準:被害者が受け取ることのできる最低限の金額基準
- 任意保険基準:示談交渉で加害者側の保険会社が提示する金額基準
- 弁護士基準:示談交渉で被害者側の弁護士が提示する金額基準
任意保険基準は保険会社ごとに異なりますが、一般的には自賠責基準、つまり最低限の金額に少し上乗せした程度だと言われています。
それに対して弁護士基準は、過去の判例に基づいて決められた金額基準であり、最も妥当な金額であると言えます。
そのため示談交渉では、加害者側から提示された任意保険基準の金額を、どこまで弁護士基準近くまで増額させられるかがポイントになります。
ではここからは、示談交渉で目指すべき弁護士基準の相場金額・計算方法をご紹介していきます。
学生の死亡慰謝料|相場・計算方法は?
学生の死亡慰謝料の計算方法は?
死亡慰謝料は、計算によって算出するものではありません。生前の被害者の家族内での立場に応じて決められています。
学生の方の場合は、弁護士基準で2000万円~2500万円となっています。
学生 | 2000万~2500万円 |
---|
任意保険基準では、学生の死亡慰謝料は1200万円~1600万円ほどと言われていますので、示談交渉時に提示される金額もそのくらいかと思われます。
親の精神的苦痛も賠償請求できる?
死亡慰謝料には元々、死亡したご本人の精神的苦痛とともに、そのご家族の精神的苦痛に対する補償も含まれています。
ただ、息子さんや娘さんの死を受けてご家族が精神疾患を患うなど、特に著しい精神的苦痛が見られる場合には、増額を求めることも可能です。
死亡慰謝料が増額されるケースと事例は?
弁護士基準で定められた学生の方の死亡慰謝料は2000万~2500万円ですが、以下の場合にはこれよりも高額な慰謝料を請求できる可能性があります。
- 加害者側に故意・重大な過失、不誠実な態度がある場合
- 死亡事故を受けてご家族が精神疾患を患った場合
では次に、実際の事例をご紹介します。
▼加害者側に故意・重大な過失、不誠実な態度がある事例
単身者(男・19歳・大学生)につき、加害車両には最大積載量の3.4倍を超える積荷が載せられていた上、加害車両に最大積載量を偽るステッカーを貼るなど過積載の態様も悪質であったこと等から、本人分と父分を併せ2800万円を認めた(事故日平24.3.29 京都地判平27.3.9 交民49・5・1304)
出典:『損害賠償額算定基準上巻(基準編)2019』(日弁連交通事故相談センター東京支部)
▼加害者に重大な過失があり、家族が精神疾患を患った事例
大学生(女・19歳)につき、加害者が3件の店で飲酒を重ね仮眠の状態で事故を起こしたこと、救護措置を講じなかったこと、飲酒運転が日常的であったこと、被害者の母は事故後抑うつ状態と診断されていること、次兄は本件事故が遠因となって大学を退学したこと等から、本人分2500万円、父母各200万円、兄2人各100万円、合計3100万円を認めた(事故日平13.12.29 東京地判平18.7.28 交民39・4・1099)
出典:『損害賠償額算定基準上巻(基準編)2019』(日弁連交通事故相談センター東京支部)
この他にも、事情によっては増額が可能な場合もありますので、この場合はどうなのだろう」と気になることがある方は、弁護士に問い合わせてみることをお勧めします。
学生の死亡逸失利益|相場・計算方法は?
学生の死亡逸失利益の計算方法は?
死亡逸失利益は、以下の計算式から算出されます。
死亡逸失利益=年収×(1‐生活費控除率)×ライプニッツ係数
ただ、計算式を見ても生活費控除率やライプニッツ係数など見慣れない用語もあり、すぐに計算できないかと思います。
そこでここからは
- 学生の場合、年収はいくらとするのか?
- 生活費控除率とは?
- ライプニッツ係数とは?
という疑問にお答えしていきます。
学生の死亡逸失利益の計算Q&A
Q1. 学生の年収はいくらとするのか
年収* | |
---|---|
高校生以下 | 男子:男性労働者の全年齢平均賃金(558万4500円) 女子:全労働者の全年齢平均賃金(497万2000円) |
大学生 | 男女別・大卒の平均賃金 ・男子:668万9300円 ・女子:462万5900円 |
医大生 | 医師の平均賃金(1161万800円) |
金額は、平成30年のもの
学生の方の場合、実際に社会に出た場合にいくらの年収を得ていたかは予測するしかありません。そのため、平均年収を採用します。
しかし加害者側保険会社が計算する場合、これよりも年収を低く見積もっている可能性がありますので、金額の提示を受けた際は、計算の内訳まで確認することが重要です。
また、基本的には表の通りですが、高校生以下でも大学への進学意思があり、実際に進学していた可能性が高いと思われる場合には、男女別・大卒の平均賃金を採用することになります。
実際に高校生以下でも大学生の場合と同じ収入を適用した事例をご紹介します。
高校2年生(男・17歳)につき、高校1年時の成績は優れていなかったが、勉学に対する意欲があり大学へ進学するのを当然とする家庭環境(両親大学卒、姉2人も国立大学卒)にあって両親及び本人も大学進学を希望していたことから、大学に進学した蓋然性が高いとして、賃セ男性大卒全年齢平均を基礎とした(東京高判平15.2.13 交民36・1・6)
出典:『損害賠償額算定基準上巻(基準編)2019』(日弁連交通事故相談センター東京支部)
Q2. 生活費控除率とは?
死亡逸失利益では、亡くなられたご本人が将来消費していたと思われる金額は差し引かれます。そのための数値のことを、「生活費控除率」といいます。
生活費控除率は生前の被害者の方の立場に応じて決められています。
学生の方の場合、女性で30%、男性で50%となります。男女で割合が違のは、平均賃金に差があるためです。
女子 | 30%* |
---|---|
男子 | 50% |
基礎収入で全労働者の全年齢平均賃金使う場合、45%とする場合が多い
Q3. ライプニッツ係数とは?
死亡逸失利益を受け取るということは、交通事故に遭わなければ将来収入として受け取るはずだったお金を一度に受け取るということです。
そうするとそのお金は銀行に預金することになるかと思います。すると、実際にそのお金を収入として受け取るはずだった頃には利子がつき、増額しています。
その利子による増額分をあらかじめ差し引くための数値をライプニッツ係数といいます。
ライプニッツ係数は、死亡年齢~定年(67歳)の年数に応じて決められています。
ただし、学生の方の場合は
死亡年齢~定年の年数に対応する係数から、死亡年齢~就労開始年齢の年数に対応係数を差し引いたもの
を適用します。
では、高校生・大学生の方のライプニッツ係数を年齢別にご紹介します。
年齢 | 係数 |
---|---|
15 | 15.6949 |
16 | 16.4796 |
17 | 17.3035 |
18 | 14.6227 |
19 | 15.354 |
20 | 16.1216 |
21 | 16.9277 |
22 | 17.7741 |
高校生の場合は高卒で働き始めると想定した場合のライプニッツ係数をご紹介しています。
ただし、高校生でも大学進学の意志があり、大卒で働いていた可能性が高い場合には、ライプニッツ係数はこの表のとおりではありませんのでご注意ください。
また、加害者側保険会社が逸失利益を計算する場合は、実際とは異なるライプニッツ係数を適用している場合があります。加害者側から金額の提示を受けた際には、計算に用いられているライプニッツ係数についても確認してみてください。
学生の死亡逸失利益|実際の計算例
ではここで、男性(19歳・大学生)を想定して死亡逸失利益を計算してみます。
- 年収:668万9300円(男子・大卒の平均賃金)
- 生活費控除率:50%
- 就労できなくなった年数:45年(大卒22歳~67歳)
- ライプニッツ係数:15.354
- 死亡逸失利益:668万9300円×(1-0.5)×15.354=約5135万3756円
【まとめ】学生の死亡慰謝料・逸失利益のポイント
ここまで、学生の方が交通事故で死亡された場合の死亡慰謝料・死亡逸失利益について解説してきました。内容をまとめると、
- 学生の方の死亡事故では、死亡慰謝料、死亡逸失利益、葬祭費を請求できる
- 学生の死亡慰謝料は2000万~2500万円が妥当
→加害者側から提示される金額はもっと低いことが多いので要注意
死亡逸失利益は「年収×(1‐生活費控除率)×死亡により就労できなくなった年数に対するライプニッツ係数」で計算される
→加害者側の計算では年収やライプニッツ係数が低く見積もられている可能性があるので要注意
となります。
死亡慰謝料や死亡逸失利益は金額自体が大きいので、たとえ加害者側から提示された金額が妥当な金額より低くても、そのことに気が付かないことも多いです。
金額の大きさそのものを見るのではなく、「死亡慰謝料・死亡逸失利益として適切な金額か」という点に注目してください。
そのためにも、この記事でご紹介した死亡慰謝料・死亡逸失利益の相場金額、計算方法を改めてよくご確認ください。
学生の死亡慰謝料についてのQ&A
死亡事故による慰謝料・賠償金の内訳は?
死亡事故では、加害者側に、① 死亡慰謝料、② 死亡逸失利益、③ 葬祭費を請求することができます。また、死亡までの間に入通院期間があった場合は、入通院慰謝料や治療費なども請求することができます。
学生の死亡慰謝料はいくら?
学生の方が交通事故で亡くなられた場合、死亡慰謝料は弁護士基準で2000万円~2500万円となります。ただし、加害者側が示談交渉で提示してくる金額はこれより低く、1200万円~1600万円程度と考えられます。
学生でも逸失利益はもらえる?
学生でも死亡逸失利益を請求することはできます。死亡逸失利益は、死亡したことで得られなくなった将来の収入に対する補償です。学生の方は、交通事故がなければ将来働いて収入を得ていたと考えられるため、死亡時に収入がなくても死亡逸失利益を請求することができます。