怪我なしの交通事故で慰謝料はもらえない?示談金の相場は?
交通事故にあったものの運よく怪我なしで済んだけど、
「コツコツ貯金して買った新車が大破した…」
「丹精込めて作った作品が事故の衝撃で壊れた…」
「家族も同然のペットを事故で失った…」
怪我なしの交通事故では、慰謝料を請求することはできるのでしょうか。結論から述べれば、怪我なしの交通事故では慰謝料を請求することは原則、不可とされています。
なぜ怪我なしの交通事故では慰謝料が請求できない?
怪我なしでも慰謝料が例外的に認められることもある?
怪我なしの交通事故で請求できる示談金の範囲は?
本記事では、「怪我なしの交通事故における慰謝料」について解説していきます。
怪我なしの交通事故で慰謝料は認められる?
交通事故における慰謝料の種類
交通事故の慰謝料
事故が原因で負った怪我などによって被った精神的苦痛に対して支払われる賠償(金銭的補償)
もしかすると、交通事故の慰謝料は事故で被った損害すべてを補償するものだと思われていたかもしれませんね。交通事故の慰謝料は損害賠償の一部であり、精神的苦痛に対してのみ支払われる補償を意味します。
交通事故では以下のような3つの慰謝料の種類があげられます。
内容 | |
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入通院慰謝料 (傷害慰謝料) |
治療で受けた精神的苦痛に対する補償 |
後遺障害慰謝料 | 後遺障害が残って受けた精神的苦痛に対する補償 |
死亡慰謝料 | 死亡したことで受けた精神的苦痛に対する補償 |
いずれも交通事故によって死傷した場合に、相手方に請求が可能になる慰謝料です。怪我なしの交通事故では請求することができない慰謝料です。
<関連記事>交通事故の慰謝料
怪我なしは基本的に慰謝料の請求不可
怪我がない物損のみの交通事故では原則として慰謝料を請求することはできません。慰謝料は事故によって死亡したり傷害を負ったことで受けた精神的苦痛に対して支払われる補償だからです。
もっとも、例外的に怪我なしの物損事故であっても「特段の事情」が認められれば慰謝料の請求が可能になります。
特段の事情
- ① 社会通念上認められる特別な主観的・精神的価値を有し、財産的損害の賠償を認めただけでは足りないこと
- ② 加害行為が著しく反社会的で財産に対する金銭賠償では償えないほどの精神的苦痛を受けたこと
物損にともなう精神的苦痛については、物損に対する損害賠償を受け取ることで同時に填補されると考えられるのが通常です。「貯金してやっと買えた新車だから…」、「思い入れの強い車だった」といった程度で慰謝料が認められるのはむずかしいといえます。
特段の事情が認められるような物損事故でなければ、慰謝料を請求することはできません。
怪我なし(物損事故)で慰謝料が認められた事例
怪我なしの物損事故で慰謝料が認められた事例をいくつか紹介します。どのような場合であれば慰謝料が認められるのか、しっかり見ていきましょう。
▼概要 交通事故で犬が死亡し、犬の葬儀費用と慰謝料が認められた事案。長い間、家族同然に飼ってきたことを鑑みて慰謝料が認められた。 |
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慰謝料 | 5万円 |
東京高等裁判所 平成16年2月26日
▼概要 交通事故で霊園の墓石等が倒壊した事案。墓石という敬愛追慕の念の対象としての特殊性を鑑みて慰謝料が認められた。 |
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慰謝料 | 10万円 |
大阪地方裁判所 平成12年10月12日
▼概要 交通事故で芸術家が作成した陶芸作品が損壊した事案。取って替えることができない芸術作品であったことなどを鑑みて慰謝料が認められた。 |
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慰謝料 | 100万円 |
東京地方裁判所 平成15年7月28日
以上のようなケースが金銭賠償だけでは回復がはかられないと判断された事例になります。
怪我なし事故で請求される示談金の相場と範囲
示談金の相場は実費相当額
怪我なしの交通事故であったとしても物損は発生していることになります。この場合に認められる示談金は、事故によって受けた被害の原状回復にかかった必要かつ相当な費用が相場であるといえます。
物損に関する補償は、自賠責保険は適応外です。自賠責保険は対人補償に限定した保険だからです。
事故の相手方が対物賠償をふくんだ任意保険に加入していれば、その保険会社に損害賠償請求することになるでしょう。もし相手方が任意保険にも加入していない場合は、相手方本人に対して物損に関する損害賠償請求を行うことになります。
また、相手方が全くの無保険であるような場合は、ご自身が加入する車両保険が適応できるのであれば損害を回収することができます。もっとも、保険を利用すると翌年以降の保険料が値上がりするというデメリットもありますので、そのような点も見極めてから利用することをおすすめします。
示談金の範囲は実損項目
怪我なしの物損事故で認められる主な示談金の範囲は、
- 修理費用
- 買い替え差額
- 評価損
- 代車使用料
- 休車損
などがあげられます。
この他にも、買い替えで要した手数料や税金なども必要かつ相当な範囲で請求することができます。
怪我なしの判断は必ず病院で!
事故直後は怪我なしでも病院で検査を
血も出ていない、痛みもないからといっても油断は禁物です。事故直後は怪我なしで済んだと思っていても、後から痛みが出てくる可能性も十分にあります。交通事故にあった直後は、事故にあったことで脳が興奮していて痛みを感じなかったりするためです。
事故にあったら必ず病院にいって、医師による診察やレントゲン・MRIなどの検査を受けるようにしましょう。本当に無傷かどうかは、かならず病院の医師による診断によって判断してもらってください。
重要
事故にあったら自己判断で怪我なしとせず、必ず病院を受診する!
<関連記事>軽傷・無傷の場合について
怪我なしではないのに物損事故にするリスク
怪我がある事故なのに、「警察から物損で処理したほうが手続きが楽だと言われた」、「保険会社から治療費は払うので物損事故で処理したいといわれた」といったように物損事故で処理をすすめてしまう方も少なくありません。後遺症の心配もなさそうな軽傷だった場合はとくに、頼まれると安易に承諾してしまいかねません。
しかし、軽症だったとしても少しでも怪我があるのであれば物損事故としての処理は、被害者にとってほとんどメリットはないといっていいでしょう。むしろ、メリットよりもデメリットの方が大きいといえます。
物損事故で処理するリスク
- 必要な治療費を請求できない
- 早期の治療費の打ち切り
- 通院慰謝料の減少
- 後遺障害が非該当の可能性が高まり、後遺障害慰謝料がもらえない
このようなリスクが非常に高いです。
この他にも過失割合を争っている場合、「実況見分調書」が作成されない物損事故扱いにしていると過失を主張する証拠が不十分で不利になる可能性もあります。
怪我を負ったのにもかかわらず、あえて物損事故の扱いにするメリットはほぼないといっていいでしょう。今すぐ、人身事故への切り替えをおすすめします。
まとめ
怪我なしの交通事故では原則として慰謝料が認められないことが分かりました。慰謝料が認められることもありますが、特段の事情があると判断されなければむずかしいです。
怪我を負っているのに物損事故扱いにしているという方は、早急に病院を受診し、人身事故に切り替えてください。物損から人身への切り替えに不安がある方や、保険会社とのやり取りに疑問がある方は、一度、交通事故を専門的にあつかう弁護士に相談してみることをおすすめします。
怪我なし交通事故の慰謝料に関するQ&A
怪我なし交通事故は慰謝料の請求不可?
怪我なしの交通事故(物損事故)では、原則として慰謝料を請求することができません。慰謝料は事故によって受けた精神的苦痛に対して支払われるものだからです。もっとも、「特段の事情」が認められるような例外的なケースでは慰謝料が請求できることもあります。
どのような怪我なし事故で慰謝料が認められる?
怪我なし事故で慰謝料が認められた代表的な事例としては、① 家族同然の犬が事故で死亡した、② 先祖が眠る場所である墓石が事故で倒壊した、③ 取って替えることができない芸術作品の陶芸が事故で損壊した、などがあげられます。このようなケースでは、金銭賠償だけでは回復がはかられないと判断されています。
怪我なし事故における示談金相場と範囲は?
怪我なし事故における示談金の相場は、事故被害の原状回復にかかった必要かつ相当な実費相当額と言えます。示談金として認められる範囲は、修理費用・買い替え差額・評価損・代車使用料・休車損などが主にあげられます。