交通事故の慰謝料|確定申告は必要?慰謝料は課税対象になる?
交通事故に遭うと、加害者側から慰謝料や賠償金を受け取ったり、加入している保険から保険金を受け取ったりします。
その場合、受け取ったお金に対して税金はかかるのか、確定申告などの手続きは必要なのか、気になると思います。
慰謝料や賠償金、保険金は課税される?
課税される場合、何税になる?
確定申告などの手続きは必要?
この記事ではそうした、税金に関する疑問にお答えしていきます。
交通事故の慰謝料は課税対象になる?
基本的に慰謝料・賠償金は非課税
交通事故に遭うと、加害者側から慰謝料や賠償金を受け取ります。
これらは、交通事故によって生じた損害を補填するためのものです。
もちろん、実際には交通事故による精神的苦痛や後遺症などを、お金によってなかったことにすることはできません。
そのためあくまで理論上の考え方にはなりますが交通事故によって生じたマイナスを慰謝料・賠償金によってゼロにするということです。
それなのに慰謝料や賠償金に対して税金がかかると、マイナスを補填しきれず、結果的にマイナスのままになってしまいます。
それでは慰謝料・損害賠償の意味がありませんよね。
そのため、基本的に交通事故の慰謝料・賠償金は課税されないのです。
このことは、所得税法第9条にも定められているので、ご紹介します。
次に掲げる所得については、所得税を課さない。
(略)損害保険会社又は(略)外国損害保険会社等の締結した保険契約に基づき支払を受ける保険金及び損害賠償金(これらに類するものを含む。)で、心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他の政令で定めるもの(略)
出典:所得税法第9条
交通事故の慰謝料については、以下の記事もご覧ください。
死亡事故で相続税はかかる?
通常、交通事故の慰謝料や賠償金は被害者ご自身のものです。
しかし死亡事故の場合は、ご遺族が被害者の慰謝料・賠償金を受け取ります。
この場合、相続税がかかるのでは?と思われる方もいらっしゃるかと思います。
しかしこの場合も、相続税はかかりません。
国税庁のHPを見てみると、以下のように書かれています。
被害者が死亡したことに対して支払われる損害賠償金は相続税の対象とはなりません。
この損害賠償金は遺族の所得になりますが、所得税法上非課税規定がありますので、原則として税金はかかりません。
出典:https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/4111.htm
上の引用文に出てくる所得税法上非課税規定とは、すでにご紹介した所得税法第9条のことです。
この国税庁の説明を読んで、なぜ死亡事故の賠償金が相続税の対象とならないのか?と疑問に思われる方もいると思います。
この理由は、債権(損害賠償を受ける権利)が誰に与えられるかにあります。
交通事故の慰謝料・賠償金の債権は通常、被害者ご本人に与えられます。しかし死亡事故の場合、すでに被害者の方は亡くなられています。
そのため、債権は初めからご遺族に与えられます。
つまり、死亡事故の慰謝料・賠償金は初めからご遺族のものとされるので、相続税の対象にならないのです。
休業損害で所得税はかかる?
休業損害は、交通事故に遭ったことで休業を余儀なくされた場合に、休んだ分の収入を補償するものです。
休業によって得られなかった「収入」に対する補償なので、所得税がかかるのでは?と思われる方も多いです。
しかし、休業損害に対しても税金はかかりません。
休業損害は、交通事故によって生じた損害を補償するものであって、これによって利益が生じるわけではありません。
そのため、休業損害に対して税金がかかることはないのです。
要注意|こんな場合は課税対象に!何税になる?
①過剰な慰謝料
交通事故の慰謝料・賠償金が非課税となるのは、それが交通事故による損害を補填するものだからです。
もし慰謝料の金額が、交通事故による損害に対してあまりにも高額である場合、それは損害の補填とはみなされない可能性があります。
例として「見舞金」が挙げられます。
見舞金とは、加害者のお詫びの気持ちを表す金銭です。
これは慰謝料とは別物ですが、けがの程度や治療のための交通費などを鑑みて適当な金額であれば、慰謝料と同じように扱われて非課税となります。
しかし、けがの程度や治療のための通院費と比較してあまりにも高額である場合は、「損害に対する補填」には当たらないとして課税されます。
税金の種類としては「所得税」になります。
なお、見舞金はあくまで加害者がお詫びの気持ちを表すための一つの手段にすぎません。
見舞金を支払うかどうかは加害者次第ですので、ご注意ください。
②賠償以外の目的の見舞金
見舞金には、上でご紹介したような加害者から支払われるものの他に、勤務先から支払われるものもあります。
交通事故に関するものですと、
- 死亡弔慰金:本人が死亡したとき支給される
- 傷病見舞金:病気やけがなどで会社を欠勤あるいは入院したときに支給される
があります。
こうした見舞金は、あくまでも従業員に対する支援として支払われるものですので、損害に対する補償ではありません。
そのため、課税の対象となります。
課税の種類は所得税です。
なお、見舞金制度は会社によって様々ですので、会社から見舞金を受け取れるかどうかは、就業規則をご確認ください。
③本来経費に計上できるもの
本来経費に計上できるものに対する賠償金は、課税対象になります。
例えば、自営業の方がこれから売る商品を車に積んでいたとします。
もしここで事故に遭えば、
- 事故によって商品は壊れた(手元からなくなった)
- その代わり、商品代を加害者側に支払ってもらった
ということになります。
一方、もし事故に遭わずに通常通りその商品を売っていれば、
- 商品は売れた(手元からなくなった)
- その代わり、商品代を買い手に支払ってもらった
ということになります。
つまり、本来経費に計上するものについては、それが手元からなくなった理由が違うだけで、結果的に商品代が手に入ったという点では事故に遭った場合でも遭わなかった場合でも同じなのです。
したがって、経費に計上できるものに対する賠償金は所得と同じように扱われるので、所得税がかかります。
④示談成立後に被害者が死亡した場合
死亡事故の慰謝料・賠償金には税金がかからないというのは上でもご紹介した通りです。
しかしそれは、被害者の方が示談交渉前に亡くなられた場合の話です。
示談成立後に被害者の方が亡くなられた場合には、相続税がかかります。
国税庁のHPを確認すると、以下のように書いています。
被相続人が損害賠償金を受け取ることに生存中決まっていたが、受け取らないうちに死亡してしまった場合には、その損害賠償金を受け取る権利すなわち債権が相続財産となり、相続税の対象となります。
出典:https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/4111.htm
示談成立後に被害者の方が亡くなられた場合は、一度被害者ご自身に与えられた債権(損害賠償金を受け取る権利)をご遺族が相続することになります。
別の言い方をすると、被害者の方が受け取るはずだった慰謝料・賠償金をご遺族が代わりに受け取ることになるから、相続税がかかるということです。
⑤損害賠償金の性格を有しない死亡保険金
交通事故に遭うと、加害者側だけではなく被害者が加入している保険から保険金を受け取ることもあります。
被害者の方がけがをした、後遺障害を負ったという場合、加入している保険会社からの保険金に税金はかかりません。
保険金も、交通事故による損害を補填するためのものとされるからです。
しかし死亡事故の場合は、被害者の方が被保険者となっている保険からの損害賠償金の性格を有しない保険金に税金がかかります。
死亡保険金が何税に当たるかは、保険の契約者・被保険者・受取人が誰なのかによって異なります。
死亡保険金の税の種類
契約者=被保険者の場合:相続税
契約者・被保険者=夫、受取人=妻 など
契約者=受取人の場合:所得税
契約者・受取人=夫、被保険者=妻 など
契約者≠被保険者≠受取人の場合:贈与税
契約者=夫、被保険者=妻、受取人=子 など
慰謝料・賠償金の税金の種類をおさらい
色々な場合をご紹介してきましたので、ここで一度、どういった場合に何税がかかるのか、おさらいしておきます。
所得税がかかる
- 過剰な慰謝料
- 賠償以外の目的の見舞金
- 本来経費に計上できるもの
- 損害賠償金の性格を有しない死亡保険金(契約者=受取人の場合)
相続税がかかる
- 示談後に被害者の方が亡くなった場合の慰謝料・賠償金
- 損害賠償金の性格を有しない死亡保険金(契約者=被保険者の場合)
贈与税がかかる
損害賠償金の性格を有しない死亡保険金(契約者≠被保険者≠受取人の場合)
税金の申告と言えば確定申告という印象が強い方も多いかと思いますが、税金の種類によって申告の方法が異なります。
次の節では、税の種類別に申告方法をご紹介します。
確定申告だけじゃない?税金の申告方法
①所得税の場合
交通事故の慰謝料・賠償金・保険金に所得税がかかった場合には、確定申告をします。
確定申告は、課税対象となる収入を得た翌年の2月16日から3月15日までの間に行い、所得税を納付します。
②相続税の場合
交通事故の慰謝料・賠償金・保険金に相続税がかかった場合、相続人は税務署に申告・納税する必要があります。
詳細は以下の通りです。
- 税務署:被相続人の住所地の所轄
- 期限:相続の開始があったことを知った日(通常は被相続人が死亡した日)の翌日から10か月以内
③贈与税の場合
死亡事故の保険金に贈与税がかかった場合、税務署に申告し、納税します。
申告と納税の期限は以下の通りです。
- 申告期限:贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日まで
- 納税期限:納税の期限は、申告期間の最終日である3月15日
まとめ|交通事故の慰謝料に確定申告は必要?
ここまで、死亡事故の慰謝料・賠償金にかかる税金について解説してきました。
どういうときに何税がかかるのかは、第2章の「慰謝料・賠償金の税金の種類をおさらい」のところを見ていただくと確認できると思います。
交通事故に遭った場合に受け取れる慰謝料・賠償金は、示談交渉によって決まります。
相場がどうであれ、実際にもらえる金額は交渉次第であるということです。
交通事故に遭われた場合には、税金のことともに、交通事故の示談交渉・慰謝料相場についても確認しておくことをお勧めいたします。
慰謝料・賠償金と税金についてのQ&A
交通事故の慰謝料は課税される?
基本的に、交通事故の慰謝料や賠償金は非課税です。交通事故の慰謝料や賠償金は、交通事故によって生じた損害を補填するものであり、課税するとその役割を十分に果たせなくなってしまうからです。
課税される慰謝料・賠償金とは?
① 過剰な慰謝料、② 賠償以外の目的の見舞金、③ 本来経費に計上できるもの、④ 示談成立後に被害者が死亡した場合、⑤ 損害賠償金の性格を有しない死亡保険金には、所得税や贈与税、相続税がかかります。
慰謝料・賠償金が課税されたらどうする?
慰謝料や賠償金が課税対象となったら、税務署に申告する必要があります。かかる税が所得税なのか相続税なのか贈与税なのかによって、申告の期限や納税の期限が異なるため、注意が必要です。