交通事故の死亡慰謝料|高齢者の計算方法は?相場金額や相続人を解説
この記事は、交通事故で高齢者の方(65歳以上)が亡くなられた場合の慰謝料・賠償金について解説しています。
交通事故でご高齢のお母様、お父様、おじい様、おばあ様を亡くされると、49日を過ぎたころから加害者側との示談交渉がはじまります。
せめて十分な慰謝料・賠償金を支払ってほしいとお思いかと思います。そこでこの記事では、
- 死亡事故で請求できる慰謝料・賠償金の内訳
- 高齢者の方の場合の計算方法・相場金額
- 実際の事例や増額されるケースのご紹介
をしています。
十分な金額を得るためにはまず、十分な金額はいくらなのか、その根拠は何なのかを把握しておくことが大切です。
分かりやすい説明に努めておりますので、ぜひご確認ください。
交通事故で死亡したら|請求できる慰謝料は?
死亡事故の慰謝料・賠償金の内訳は?
交通事故で被害者の方が死亡された場合、死亡慰謝料・死亡逸失利益・葬祭費を加害者側に請求することができます。
死亡慰謝料 | 交通事故で死亡した被害者自身やその家族の精神的苦痛に対する補償 |
---|---|
死亡逸失利益 | 交通事故で死亡しなければ得られたはずの将来の収入に対する補償 |
葬祭費 | 通夜・葬儀・墓石・位牌などの費用 |
死亡慰謝料、葬祭費は被害者が高齢者の方でも請求することができます。
死亡逸失利益は、事故に遭うまで収入を得ていた場合に請求できるものですので、再雇用やアルバイトなどで働かれていた場合は請求できます。
また、交通事故の賠償請求では主婦業も賃金労働と同じように考えるため、主婦だった方の場合も、死亡逸失利益を請求できます。
年金については、老齢年金や障害年金は認められる傾向にありますが、遺族年金は対象外とされる傾向にあるようです。
死亡逸失利益を請求できる場合
- 実際に働き収入を得ていた場合
- 主婦業に従事していた場合
- 老齢年金、障害年金
慰謝料の3つの基準に要注意
死亡事故の慰謝料・賠償金の相場金額や計算方法をご紹介していく前に、「交通事故の慰謝料の3つの金額基準」について解説しておきます。
交通事故の慰謝料金額には、「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」という3つの金額基準があります。
- 自賠責基準:被害者が受け取ることのできる最低限の金額基準
- 任意保険基準:示談交渉で加害者側の保険会社が提示してくる金額基準
- 弁護士基準:示談交渉で被害者側の弁護士が提示する金額
この中で最も妥当な金額と言えるのは、「弁護士基準」のものです。これは、過去の判例をもとに定められた金額だからです。
しかし実際に示談交渉で加害者側保険会社から提示されるのは、各保険会社がそれぞれの基準で定めている「任意保険基準」です。
任意保険基準は、最低限の金額基準である自賠責基準に少し上乗せした程度と言われている水準であり、決して十分な金額とは言えません。
示談交渉では、加害者側から提示された任意保険基準の金額を、どれだけ弁護士基準に近い金額まで近づけられるかが重要になります。
では次からは、死亡慰謝料・死亡逸失利益の金額、計算方法についてご紹介していきます。
高齢者(老人)の死亡慰謝料|相場・計算方法は?
高齢者の死亡慰謝料の計算方法は?
死亡慰謝料は、被害者の方が生前家族内でどのような立場にあったかに応じて決まっています。高齢者の方の場合、弁護士基準では2000万~2500万円となります。
一方任意保険基準では1100万~1400万円となっておりますので、示談交渉時にはそのくらいの金額が提示される可能性が高いです。
弁護士基準 | 2000万~2500万円 |
---|---|
任意保険基準 | 1100万~1400万円 |
本来なら弁護士基準である2000万~2500万円の死亡慰謝料が妥当なのに、加害者側保険会社からは1100万~1400万円しか提示されなかったという場合、増額を交渉したいと思いますよね。
この時、死亡されたご家族が交渉をされても増額が叶う可能性はあります。しかし、増額幅が十分でない可能性が高いです。
ここまでなら出せるという保険会社内での金額設定が、弁護士がいる場合といない場合では異なることも多いからです。
そのため、できる限り増額させたいという場合には、一度弁護士に問い合わせてみると良いかと思います。
高齢者も死亡逸失利益の計算方法は?
再雇用やアルバイトなどで収入があった場合、死亡慰謝料は以下のように計算します。
死亡逸失利益=年収×(1‐生活費控除率)×死亡により就労できなくなった年数に対するライプニッツ係数
一見複雑そうに見えますが、それぞれの要素がどのようなものなのかが分かれば難しい計算ではありません。一つ一つご説明していきます。
① 年収
実際の事故前の年収を採用します。主婦業をされていた方は、女性の全年齢平均(382万円)を採用します。
② 生活費控除率
死亡逸失利益では、被害者の方が将来消費したであろう金額は差し引かれます。そのための数値が生活費控除率です。
生活費控除率は、以下のようになります。
一家の支柱(被扶養者1人) | 40% |
---|---|
一家の支柱(被扶養者2人以上) | 30% |
女性(主婦含む) | 30% |
男性 | 50% |
③ 死亡により就労できなくなった年数
就労できなくなった年数は、基本的に事故時の年齢~定年(67歳)として考えます。しかし、65歳以上の高齢者の方の場合は、67歳間近であったり67歳を過ぎていたりすると思います。
そのため、「平均余命の1/2の期間」を死亡により就労できなくなった年数と考えます。
例として、65歳~80歳の方の平均余命をご紹介します。
男性 | 女性 | ||
---|---|---|---|
年齢 | 平均余命 | 年齢 | 平均余命 |
65 | 19.7 | 65 | 24.5 |
66 | 18.9 | 66 | 23.61 |
67 | 18.12 | 67 | 22.72 |
68 | 17.35 | 68 | 21.83 |
69 | 16.59 | 69 | 20.96 |
70 | 15.84 | 70 | 20.1 |
71 | 15.11 | 71 | 19.24 |
72 | 14.38 | 72 | 18.38 |
73 | 13.67 | 73 | 17.53 |
74 | 12.97 | 74 | 16.69 |
75 | 12.29 | 75 | 15.86 |
76 | 11.62 | 76 | 14.05 |
77 | 10.95 | 77 | 14.24 |
78 | 10.31 | 78 | 13.45 |
79 | 9.68 | 79 | 12.67 |
80 | 8.06 | 80 | 11.91 |
平均余命は厚生労働省のホームページから確認できますので、そちらもご覧ください。
④ ライプニッツ係数
死亡逸失利益を受け取るということは、交通事故がなければ将来にわたって少しずつ受け取るはずだった収入を一度に受け取るということです。
そうなると、その大部分は銀行に預金することになり、本来そのお金を受け取るはずだった時には利子がつき増額しています。その増額分をあらかじめ差し引いておくための数値が、ライプニッツ係数です。
ライプニッツ係数は、上でご紹介した「就労できなくなった期間」に応じて決まっています。その一部をご紹介いたします。
11年 | 8.3064 |
---|---|
9年 | 7.1078 |
6年 | 5.0757 |
3年 | 2.7232 |
これらを踏まえて69歳主婦の方の死亡逸失利益を計算してみます。
計算例
- 年収:382万円
- 生活費控除率:30%
- 就労できなくなった年数:20.96÷2=約10
- ライプニッツ係数:7.7217
◎逸失利益=382万円×(1-0.3)×7.217=約2064万7825円
高齢者(老人)の死亡事故の疑問
高齢者の死亡慰謝料が増額されるケースとは?
高齢者の方の死亡慰謝料は、弁護士基準で2000万~2500万円となっています。しかし、状況によってはこれよりも増額される可能性があります。
例えば、
- 主婦として家庭を支えていた
- 親、夫、子供などの介護を担っていた
- 加害者に故意、重大な過失、不誠実な態度があった
等の場合には、増額される可能性が高くなります。
実際の事例をご紹介します。
▼家族の介護を担っていた事例
女性(75歳・主婦)につき、本人分2500万円、病気により介護を必要とする夫100万円、子2人孫1人各50万円、被害者が介護していた知的障害を持つ孫については、祖母である被害者の死により介護施設への入所を余儀なくされたことなどから300万円、合計3050万円を認めた(事故日平19.2.28 大阪地判平22.2.9 交民43・1・140)
出典:『損害賠償額算定基準上巻(基準編)2019』(日弁連交通事故相談センター東京支部)
▼加害者に重大な過失がある事例
女性(75歳・主婦)につき、加害者は前方注視義務及び信号順守義務という自転車を運転する際の基本的な注意義務を怠っており、対面する歩行者用信号機の青色投下に従った被害者には何ら落ち度がないことなどから、本人分2300万円、夫200万円、子100万円の合計2600万円を認めた(事故日平22.1.10 東京地判平26.1.28 判時2261・168)
出典:『損害賠償額算定基準上巻(基準編)2019』(日弁連交通事故相談センター東京支部)
死亡事故の保険金|相続人や分配は?
交通事故でご家族を亡くされた場合、
- 誰が賠償請求をするのか
- 慰謝料・賠償金は誰がどのくらい受け取るのか
という疑問も出てくると思いますので、これについてご説明します。
交通事故で被害者の方が亡くなられた場合は、その方の「相続人」が賠償請求を行い、賠償金を受け取ります。
相続人はご家族ならだれでもいいというわけではありません。また、被害者の方との関係性により、受け取れる分配も決まっています。
相続人の決め方と慰謝料の分配
配偶者がいる場合、配偶者は以下の人とともに必ず相続人となる。
① 被害者の子(いなければ孫)
慰謝料の分配=配偶者1:子1
② ① がいなければ被害者の親
慰謝料の分配=配偶者2:親1
③ ② がいなければ被害者の兄弟姉妹(いなければその子)
慰謝料の分配=配偶者3:兄弟姉妹1
基本的にはこの方法で決まった相続人が損害賠償の請求者となりますが、弁護士に依頼することで代理人を立てることもできます。示談交渉に不安や疑問がある方は、一度相談してみてもいいかもしれません。
高齢者(老人)の死亡慰謝料まとめ
ここまで、ご高齢のご家族が交通事故で亡くなられた場合の慰謝料・賠償金についてご紹介してきました。
ポイント
- 高齢者の死亡事故では、死亡慰謝料・葬祭費、収入がある場合は死亡逸失利益を請求することができる
- 交通事故の慰謝料は、「弁護士基準」の金額が最も妥当
- 事故前に被害者が担っていた家族内での役割や、加害者の対応によっては慰謝料が増額されることもある
- 死亡事故の慰謝料請求は相続人が行う
交通事故で被害者が亡くなられた場合、加害者側との示談交渉は49日を過ぎたころから始められます。
交通事故の示談交渉は、基本的に一度合意すると追加で賠償請求することができません。
49日を過ぎてもまだ心の整理がつかないということもあるかと思いますが、周りの方々や、場合によっては弁護士の力も借りつつ、後悔のない賠償請求となるよう、お祈りしております。
高齢者の死亡慰謝料についてのQ&A
死亡事故の慰謝料・賠償金の内訳は?
死亡事故の場合、慰謝料・賠償金の内訳は、① 死亡慰謝料、② 死亡逸失利益、③ 葬祭費となります。なお、死亡までの間に入通院期間があった場合には、入通院慰謝料や治療費なども加害者側に請求することができます。
高齢者の死亡慰謝料の相場は?
高齢者の方の場合、死亡慰謝料の相場は弁護士基準で2000万円~2500万円となります。任意保険基準であれば、1100万円~1400万円となります。実際にいくらの死亡慰謝料が受け取れるのかは、示談交渉の中で決められます。
高齢者の死亡慰謝料が増額される場合とは?
高齢者の方の死亡慰謝料は、① 生前主婦として家庭を支えていた、② 親や夫、子供の介護を担っていた、③ 加害者に故意、重大な過失、不誠実な態度があったなどの場合に増額される可能性があります。