交通事故の慰謝料|後遺症は「後遺障害認定」を!認定を受けるには?
交通事故の慰謝料は、「後遺症」が残ると増える…こんな話を聞いたことはありませんか?
実は、正確に言うと「後遺症」が残っただけでは、慰謝料は増えないんです。
慰謝料の増額を目指すなら、後遺症を「後遺障害認定」してもらうことが重要です。
この記事では、後遺症と後遺障害の違い、後遺障害認定のフロー、後遺障害に関する損害賠償(後遺障害慰謝料と逸失利益)を徹底解説します!
交通事故の慰謝料は「後遺症」が残ると増額!?
後遺症と後遺障害のちがい
「後遺症」は聞いたことがあるという人も、「後遺障害」というのは耳慣れないのではありませんか?まずは2つの違いをみてみましょう。
後遺症 | 後遺障害 | |
---|---|---|
認める人 | 医師など | 損害保険料率算出機構 |
労働能力の喪失 | 問わない | あり |
将来治る可能性 | 問わない | 治る見込みがない |
医師から「後遺症が残りましたね」と言われても、それは「後遺障害」とは限りません。
なぜなら、医師は後遺障害の認定者ではないからです。
後遺障害の定義
後遺障害は、障害が残った部位や程度、内容によって14段階に分けられます。
段階のことを「等級」といい、「●級●号」などといいます。
数字が小さくなるほど障害の程度が重いことをあらわしています。
生命を維持するために他者による介護が必要な状態については、別表1の1級、別表1の2級のように別表で定められ、損害賠償金もぐんと高額になります。
後遺症が「後遺障害」に認定されるには、まず後遺症が1~14級で決められている症状や状態に当てはまっていることが前提です。
そして、次のようなものが「後遺障害」に認定されます。
- ① 交通事故の傷病と因果関係が深く、傷病は治っても残る症状
- ② 将来的に回復が難しいと思われる症状
- ③ 医学的に存在が認められるもの
- ④ 障害が残ることで労働能力が減少・喪失しているもの
- 症状が交通事故によって引き起こされたとはいえない(事故との因果関係が認められない)場合
- 時間の経過と共に症状が改善して治癒に向かう場合
- 症状の存在はあくまで主観にすぎない場合(客観的にわからない場合)
- 労働能力に全く影響がない場合
こういうときは後遺障害認定は難しくなります。
後遺障害認定されない(非該当)場合は後遺障害慰謝料を請求することはできません。
▼後遺障害認定を受けるためのフローは次章で説明しますので、このまま読み進めてください。
後遺障害慰謝料と逸失利益
以下のイラストは被害者が受けとる損害賠償のイメージです。
損害賠償は
- 人身部分:治療中に損害額が確定するもの
- 人身部分:治療後に損害額が確定するもの
- 物損部分:修理費
と、人身部分と物損部分に分けられるだけでなく、治療中・治療後に分けることもできます。
怪我が完治した場合は、後遺障害慰謝料と逸失利益は損害賠償の対象にはなりません。
しかし後遺症がのこり、「後遺障害」に認定されたなら後遺障害慰謝料と逸失利益が損害賠償請求できます。
つまり請求できる費目が増えるので、自然と受けとる金額は増額します。
後遺障害の有無によって変わる損害賠償の内訳は以下の通りです。
後遺障害あり | 後遺障害なし | |
---|---|---|
治療費 | ○ | ○ |
休業損害 | ○ | ○ |
入通院慰謝料 | ○ | ○ |
後遺障害慰謝料 | ○ | × |
逸失利益 | ○ | × |
修理費(物損) | ○ | ○ |
後遺症が残った!「後遺障害認定」で慰謝料獲得するときの流れ
後遺症がのこると、生活が不便になって様々な負担を強いられることになるでしょう。
後遺症自体は治らなくても、後遺障害認定を受けることで、今後生きていくうえでの補償を受けとることができます。
請求すべきお金があるなら、きちんと受け取りたいですよね。
そこで、後遺障害慰謝料を受けとるために必要な後遺障害認定の流れを説明します。
①医師から症状固定と判断される
怪我の治療を一生懸命続けても、これ以上は良くも悪くもならない時期を迎えます。この状態を症状固定といいます。
症状固定の時期を迎えることから、後遺障害認定の準備が始まるのです。
もっとも、症状固定かどうかは医師の判断が尊重されますので、被害者自身が判断するものではありません。
症状固定の時期には、被害者の目線からは大きく2つの変化がおこります。
(1)相手方から治療費が支払われなくなる
(2)後遺障害認定申請の準備を始める
(1)治療費が支払われなくなる
加害者から被害者に対する賠償の目的は、損害の補てんです。
治療費が支払われるのも、治療することで怪我(損害)が回復するからです。
しかし症状固定は「治療を続けても良くも悪くもならない時期」ですので、治療費を支払っても、治る見込みがないということです。
ですから、相手方からの治療費支払いは終了となります。
「保険会社から治療費を打ち切られた」という被害者のお悩みを目にします。
これは、相手方が「怪我が治った」と認識しているか、「症状固定の時期である」と考えているからでしょう。
もし、まだ治療の必要を感じているなら、医師に相談することも一つの方法です。
しかし逆に言えば、症状固定とならないと後遺障害認定申請もできないですし、示談金を受けとることもできないのです。
(2)後遺障害認定申請の準備を始める
症状固定を迎えたら、医師に後遺障害診断書の作成を依頼しましょう。
後遺障害診断書は、後遺障害認定を受けるための重要資料です。
用意出来たら、いよいよ申請を開始します。
後遺障害認定の申請には2つの方法があり、どちらで申請するかは被害者の自由です。
2つの申請方法は、事前認定、被害者請求といいます。
②-1後遺障害認定申請:事前認定
事前認定では、医師に作成してもらった後遺障害診断書を、相手方の任意保険会社に提出します。
あとは相手方の任意保険会社が損害保険料率算出機構へ申請を行います。
損害保険料率算出機構は、申請内容を受けて、後遺障害認定すべきかを審査します。
例外的に外貌醜状などの後遺障害認定の際には面談も行われるようですが、原則としては書面審査のみとなるようです。
そして、損害保険料率算出機構で審査された結果は、相手方の任意保険会社を通じて被害者に通知されます。
事前認定では被害者の手間や負担が少ないというメリットがあります。
その一方で、相手方の任意保険会社に全面的に任せるようなかたちになり、認定結果次第では不満が残ることもあるようです。
②-2後遺障害認定申請:被害者請求
被害者請求では、医師に作成してもらった後遺障害診断書を、相手方の自賠責保険会社に提出します。
このとき、後遺障害診断書のほかにも後遺症の存在を示す資料、検査結果などを併せて提出することができます。
被害者が用意し、提出した資料をもとに損害保険料率算出機構が審査をします。
審査においては事前認定と被害者請求に違いはなく、書面審査を原則として、申請内容によっては面談が行われます。
審査結果は、相手方の自賠責保険会社を通じて届きます。
被害者請求は、被害者が資料を収集し精査するので手間や負担は大きくなります。
しかし、後遺障害等級認定されるための工夫ができるというメリットがあります。
③示談交渉
後遺障害等級が決まると、後遺障害部分の損害賠償額が算定できます。
後遺障害部分の損害賠償とは、次の2つです。
(1)後遺障害慰謝料
(2)逸失利益
示談交渉の流れはおさえておきましょう。
後遺障害慰謝料(後遺症の慰謝料)
後遺障害慰謝料算定の3基準
後遺障害慰謝料は後遺障害等級ごとにおよその基準額が決められています。
しかし重要なことは、後遺障害慰謝料を<どの基準で算定するか>で同じ後遺障害等級でも金額が変わることです。
後遺障害慰謝料算定の3基準
- ① 自賠責保険の基準
- ② 任意保険の基準
- ③ 弁護士基準
つまり、後遺障害慰謝料の目安を調べる時は
- 後遺障害等級
- 算定基準
この2つのポイントをおさえなくてはいけません。
等級別:後遺障害慰謝料
後遺障害等級ごとの後遺障害慰謝料の金額は次の通りです。
等級 | 弁護士基準 | 任意保険基準※1 | 自賠責基準 |
---|---|---|---|
1 | 2,800 | 1,300 | 1,100 |
2 | 2,370 | 1,120 | 958 |
3 | 1,990 | 950 | 829 |
4 | 1,670 | 800 | 712 |
5 | 1,400 | 700 | 599 |
6 | 1,180 | 600 | 498 |
7 | 1,000 | 500 | 409 |
8 | 830 | 400 | 324 |
9 | 690 | 300 | 245 |
10 | 550 | 200 | 187 |
11 | 420 | 150 | 135 |
12 | 290 | 100 | 93 |
13 | 180 | 60 | 57 |
14 | 110 | 40 | 32 |
※1 旧任意保険支払基準を参照、現在は保険各社が独自に設定
※2 慰謝料の単位は万円
表を見ると、後遺障害等級が一つ違うだけで基準額はぐんと変わることが分かります。後遺障害認定申請で適正な後遺障害等級の認定を受けることが、適正な慰謝料獲得につながるのです。
逸失利益(後遺症・後遺障害で失われた将来の利益)
逸失利益の計算方法
後遺障害慰謝料とは別に、逸失利益も請求することが可能です。
逸失利益とは、後遺障害が残ったことで失われてしまった、将来得られるはずだった利益のことをいいます。
将来得られるはずだった利益とは、
- 後遺障害によって実質的には昇給が難しくなった
- 後遺障害によって職種が限られてしまい移動を余儀なくされた
などが考えられるでしょう。
逸失利益の計算式は次の通りです。
逸失利益の計算式
① 基礎収入 × ② 労働能力喪失率 × ③ 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数
計算式の項目についてくわしく確認していきます。
①基礎収入
基礎収入は、被害者の年収を指します。
交通事故にあう前の年収を計算に使いましょう。
②労働能力喪失率
後遺障害等級ごとに、原則決まっています。
下表にまとめましたので参考にしてください。
等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
1 | 100% |
2 | 100% |
3 | 100% |
4 | 92% |
5 | 79% |
6 | 67% |
7 | 56% |
8 | 45% |
9 | 35% |
10 | 27% |
11 | 20% |
12 | 14% |
13 | 9% |
14 | 5% |
後遺障害等級が重くなるほど、労働能力がより多く失われてしまったと考えられるため、労働能力喪失率は上昇します。
③労働能力喪失期間にかかるライプニッツ係数
原則、働ける年齢(就労可能年齢)は67歳とされています。
逸失利益は将来失われた収入のことをいいますので、被害者があと何年働けたかがポイントになります。
たとえば、症状固定時に30歳であれば67歳までの37年の収入が、後遺障害によって減収したと考えられます。
ライプニッツ係数というのは、中間利息を控除するために使います。
逸失利益(損害賠償金)は、基本的には一括で支払われます。
そのお金は銀行に預けたり、投資などの資金運用によって、自然と増額する可能性があります。
受けとった逸失利益が元金になって利益が発生することは、生じた損害以上のお金を被害者が受けとることになり、損害賠償としては適切ではありません。
そのため発生しうる利息をあらかじめ引いておくために、ライプニッツ係数を使います。
ライプニッツ係数の一部を抜粋します。
就労可能年数 | ライプニッツ係数 |
---|---|
1 | 0.95 |
5 | 4.33 |
10 | 7.72 |
20 | 12.46 |
30 | 15.37 |
ライプニッツ係数は下記のとおり、国土交通省により詳細が公開されています。
ご自身の年齢が上表にない場合は、下記から調べることができます。
まとめ
交通事故で後遺症が残ったら、後遺障害認定を目指すことになります。
後遺障害に認定されると後遺障害慰謝料、逸失利益を請求できます。
社会復帰のため、被害者ご自身やそのご家族のためにも適正な損害賠償獲得を目指しましょう。
弁護士に依頼すると、後遺障害認定のサポートもしてもらえるそうですよ。
交通事故の慰謝料と後遺症に関するQ&A
後遺症があれば慰謝料は増える?
後遺症が「後遺障害」に認定されれば、慰謝料は増額するでしょう。後遺障害かどうかは、損害保険料率算出機構が認定するものです。後遺障害とは、労働能力が失われていたり、将来治る見込みがないなど、いくつかの条件を満たした後遺症といえるでしょう。
後遺障害慰謝料はどうすればもらえる?
後遺障害慰謝料は、① 症状が固定される、② 後遺障害認定の申請をおこなう、③ 後遺障害認定の通知結果を受けて示談を開始する、④ 示談内容にそって後遺障害慰謝料を受けとる、というような流れで進みます。後遺障害認定の申請は「事前認定」と「被害者請求」の2つがあり、どちらで認定申請するかは被害者の自由です。
後遺症の慰謝料金額はどう決まる?
後遺障害等級ごとに後遺障害慰謝料の相場があります。最も慰謝料相場の高い弁護士基準では、1級:2800万円、2級:2370万円、3級:1990万円、4級:1670万円、5級:1400万円、6級:1180万円、7級:1000万円、8級:830万円、9級:690万円、10級:550万円、11級:420万円、12級:290万円、13級:180万円、14級:110万円が相場です。
逸失利益はどう計算する?
交通事故の逸失利益は、① 基礎収入 × ② 労働能力喪失率 × ③ 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数で計算可能です。労働能力喪失率は、後遺障害等級ごとに一定の基準が設けられています。労働能力喪失期間とは、症状固定時から67歳(一般的に働けるとされている年齢の上限)までの差のことです。くわしい計算方法は、下記記事より確認してください。