交通事故慰謝料の計算|後遺障害5級|判例からみる実際の慰謝料事情
交通事故の慰謝料計算で押さえておきたいことを徹底調査。
後遺障害5級の慰謝料を計算したい人は必見です!
- 後遺障害5級の慰謝料とは
- 後遺障害5級で慰謝料以外にもらえるお金とは
- 後遺障害5級の症状・内容は
「後遺障害5級」の慰謝料の仕組みやポイントをおさえることで、交通事故の損害賠償で損をしない結果を目指しましょう。
まずは、交通事故の慰謝料について重要なポイントをお伝えします。
ポイント
後遺障害5級の慰謝料には入通院慰謝料と後遺障害慰謝料の2つがあります。
入通院慰謝料は、交通事故の怪我の治療のために病院へ入院したり、治療のために通院したという「精神的苦痛」に対する金銭的補償です。
後遺障害慰謝料は、治療しても治らず後遺障害が残った場合に損害賠償請求できる慰謝料です。後遺障害が残った「精神的苦痛」に対して支払われます。
「入通院慰謝料」については、関連記事「通院期間ごとの慰謝料」をお読みください。
この記事は、「後遺障害慰謝料」に注目した記事です。
後遺障害5級|後遺障害慰謝料は計算式がない?
後遺障害慰謝料の3基準
後遺障害慰謝料は計算式で求めるわけではありません。
後遺障害の等級ごとに、一定の目安が設けられています。
基準となる金額は以下の通りです。
自賠責基準 | 任意保険の基準* | 弁護士基準 |
---|---|---|
599万円 | 700万円 | 1,400万円 |
*以前の基準。現在は各保険会社ごとに異なる。
同じ後遺障害等級でも基準ごとに金額の差があります。
最も慰謝料相場の高い「弁護士基準」と、最も相場の低い自賠責保険の基準では、その差は約2.3倍になっています。
この「○○基準」はどのように区別されているかをみていきましょう。
①自賠責保険の基準
加害者が加入している保険です。
「自賠責保険」は、自動車の運転者に対して加入が義務付けられています。
交通事故の被害者救済を目的としていますが、先の後遺障害慰謝料の表のとおり、補償内容は最低限にとどまっています。
②任意保険の基準
加害者が加入している自動車保険で、加入は任意です。
交通事故の相手方が自動車の運転者であれば、任意保険の加入の有無をまず確認しておきましょう!
以前は任意保険の基準も一般に公開されていましたが、現在は非公開となっています。
詳細は各保険会社にゆだねられていて分かりませんが、自賠責保険の基準を少し上回る程度と言われています。
③弁護士基準
交通事故の被害者から依頼を受けた弁護士が、相手方との交渉の際に基準とするものです。
裁判所も同様の基準に基づいており、弁護士基準での慰謝料相場が最も高くなります。
慰謝料が「599万円の人」と「1,400万円の人」の違い
後遺障害慰謝料の金額は、おおよそ「目安」が設けられているとお伝えしました。
大事なこと
相手方から慰謝料や示談金を提示される場合、弁護士基準に基づいていることはほぼありません。
多くが「自賠責保険の基準」や「任意保険の基準」で算定された金額で、弁護士基準よりも低いことが多いです。
つまり、
- 「599万円」もらえる人→自賠責保険の基準で示談を結んだ人
- 「1,400万円」もらえる人→弁護士に依頼して交渉を任せた人
このように分けることができるでしょう。
もちろん、あくまで基準額になりますので、弁護士に依頼した人の全員が1,400万円もらえるとは決まっていません。ですが、何を基準に交渉するかが、最終的な金額に与える影響は多大です。
交通事故の慰謝料・後遺障害5級で1,574万円はホント?
調査をするうちに、こんな情報に出会いました。
「後遺障害5級について、自賠責保険の基準の後遺障害慰謝料は1,574万円である」
この情報はあまり正確ではありません。
なぜなら、1,574万円というのは後遺障害5級に関する保険金の総額を言うからです。
後遺障害5級の保険金は、後遺障害慰謝料と逸失利益から成り立っています。
1,574万円は2つの合計額なので、注意が必要です。
重要
自賠責保険の後遺障害5級に対する「後遺障害慰謝料」は599万円です。
1,574万円というのは、後遺障害慰謝料と逸失利益の合計額になります。
弁護士基準の後遺障害5級に対する「後遺障害慰謝料」は1,400万円です。
逸失利益も別途上乗せされます。
次に「逸失利益」の意味を確認していきましょう。
後遺障害5級|逸失利益の計算方法は?相場は決まってる?
逸失利益の計算方法
逸失利益は、後遺障害がなければ得られたはずの「将来失われた利益」をさします。
- 後遺障害のために転職せざるを得ず減収になった
- 後遺障害によって就ける仕事が減ってしまった
- 後遺障害が理由となり昇進・昇給の機会が失われた
「後遺障害」との因果関係が重要です。
また、裁判例の中では、実際には減収が生じていなくても、それが本人の努力によるものであれば、一定の逸失利益が認められた事例もあるようです!
それでは、逸失利益の計算式を見ておきましょう。
基礎収入 ✖ 労働能力喪失率 ✖ 就労可能年数に対するライプニッツ係数
被害者が18歳未満の未就労者の場合は下式を使います↓
基礎収入 ✖ 労働能力喪失率 ✖ 67歳までのライプニッツ係数ー18歳に達するまでのライプニッツ係数
ここからは計算に使う数値の求め方です。
①基礎収入
交通事故にあう前に被害者が得ていた収入のことです。
②労働能力喪失率
労働能力喪失率は後遺障害によって失われた労働力の割合のことです。
等級に応じて目安が決められています。
後遺障害5級は79%にも及び、周囲からの手助けが求められる後遺障害等級です。
③就労可能年数
18歳から67歳までが就労可能年齢とされています。
<例>
- 症状固定時:38歳
- 就労可能年数:29年(67歳ー38歳=29年)
29年分の収入が、後遺障害によって減収が起こっています。
④ライプニッツ係数
中間利息控除ともいわれています。
逸失利益に利息が付くことで、従来の損害賠償金額よりも多くの金額が被害者にわたることになります。
時間経過による利息などを、支払い時にあらかじめ差し引いておこうというものです。
特に、金融機関に預けた場合の利息となると、時間の経過と共に自然と利息が付きます。
損害賠償として受けとった5000万円が増えることになり、これは損害賠償の意味合いから外れてしまいます。
ですから将来利息などが付いて増える分を見通して、最初にあらかじめ控除するのが中間利息控除の考え方です。
実際の計算では、年齢別のライプニッツ係数を用います。
後遺障害5級|交通事故の後遺障害等級|どんな症状が該当する?
<一覧>後遺障害5級
内容 | |
---|---|
1号 | 1眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの |
2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
3号 | 胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
4号 | 1上肢を手関節以上で失ったもの |
5号 | 1下肢を足関節以上で失ったもの |
6号 | 1上肢の用を全廃したもの |
7号 | 1下肢の用を全廃したもの |
8号 | 両足の足指の全部を失ったもの |
後遺障害5級は非常に重い症状が多く、就ける仕事の範囲も相当限定されてしまいます。
そればかりか日常生活への影響も甚大です。
周囲の人からの助けが必要になるでしょう。
後遺障害5級|判例からみえる交通事故の慰謝料
ここからは実際の判例を紹介します。
一部の抜粋になりますが、交通事故の背景も掲載しますので、どういうことが後遺障害慰謝料の金額決定にかかわるかがみえてきますよ。
年齢ごとのライプニッツ係数は以下のページからチェックできます。
判例①5級2号:高次脳機能障害
認定等級 | 5級2号 |
---|---|
被害者の年齢 | 32歳 |
後遺障害慰謝料 | 1,600万円 |
逸失利益 | 1億1,469万9,715円 |
この他にも、入通院慰謝料150万円、休業損害480万3,878円などが認められました。被害者側の過失割合が25%あると認定されました。
最終的な損害賠償金は1億363万3,689円でした。
逸失利益は次の通りです。
基礎収入は交通事故後の5年間と、それ以降の2パターンに分けられました。
被害者がプログラマーという職種の特徴を考慮して、商品リリース直後は一定の高収入が見込まれるが、販売から日が経つとその売り上げは落ち着くので、収入も下がるものとされました。
(1)~5年間:基礎年収1,609万円
(2)5年後~:基礎年収627万円
(1)1,609万1,753円(基礎収入) ✖ 0.79(労働能力喪失率) ✖ 4.3295(5年間のライプニッツ係数)
(2)627万円(基礎収入) ✖ 0.79(労働能力喪失率) ✖<16.3742ー 4.3295(35年間ー5年間のライプニッツ係数)>
この判例のポイントは「プログラマーという仕事」を失ったことにあります。高次脳機能障害で記憶力などが低下したことは「プログラマー」にとって重大です。このことを重く見て、後遺障害5級の金額・1400万円(弁護士基準の慰謝料)より高い1,600万円を後遺障害慰謝料が認定されました。
判例②5級5号:1下肢を足関節以上で失ったもの
認定等級 | 5級5号 |
---|---|
被害者の年齢 | 20歳 |
後遺障害慰謝料 | 1,600万円 |
逸失利益 | 8,619万1,313円 |
この他にも、入通院慰謝料226万円、下腿義足の交換・修理費用(634万4,788円)などが認められました。被害者側の過失割合が20%あると認定されました。
最終的な損害賠償金は9,461万7,019円でした。
逸失利益は次の通りです。
676万7,500円✖ 0.79(労働能力喪失率) ✖16.1216(45年間のライプニッツ係数)
16.1216というライプニッツ係数は、就労可能年数を22歳から67歳で算定したためです。
被害者は症状固定時20歳でしたが、基礎収入の算定において大卒男性労働者の平均を用いました。
ですから、逸失利益も同様の20歳から22歳までの2年間分を引き算して、16.1216としています)
また、加害者側の主張によって争点が不明確になってしまい、被害者に著しい精神的苦痛を受けたことが考慮されました。そうして、基準の1,400万円よりも高額のく1,600万円>の後遺障害慰謝料の認定となりました。
判例③併合5級:左肩関節機能障害、手関節・手指の用廃など
認定等級 | 併合5級 |
---|---|
被害者の年齢 | 22歳 |
後遺障害慰謝料 | 1,600万円 |
逸失利益 | 8,622万2,078円 |
この他にも、入通院慰謝料317万円、治療費418万3,166円、装具代8万6,845円などが認められました。被害者側の過失割合が5%と認定されました。
逸失利益は次の通りです。
① 633万2,400円✖ 0.67(労働能力喪失率) ✖3.546(症状固定の平成22年4月8日から平成26年4月までの4年間
② 633万2,400円✖ 0.79(労働能力喪失率) ✖(17.7741ー3.546)(平成26年5月~)
この案件は、後遺障害のうちの呼吸機能の障害の症状固定が後から固定されたため、① →② というように労働能力喪失率が変更されています。
基準の1,400万円よりも高額のく1,600万円>の後遺障害慰謝料の認定となった背景には、被害者が事故当時はまだ高校3年生という年齢で趣味のクラシックギターを演奏できなくなったことなどがあげられました。
ちなみに「併合5級」というのは、系列の違う複数の後遺障害が重複している場合に、後遺障害等級を繰り上げる考え方です。ですから、判例③ については単独で「5級」の後遺障害が残っていると認定されたわけではありません。
慰謝料計算機の紹介/この記事のまとめ
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後遺障害慰謝料や逸失利益の仕組みは分かったけれども、「結局どれくらいもらえるのか?」も気になります。
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後遺障害慰謝料や逸失利益はもちろん、入通院慰謝料は休業損害も自動で計算できますよ。
※治療や手術費用、入院雑費や通院交通費などの実費は別
慰謝料計算機での結果は弁護士基準になります。今、保険会社から提案を受けている金額があるなら、比較してみると良いでしょう。
ポイントをおさらい
後遺障害5級の後遺障害慰謝料と逸失利益の計算方法、計算基準や判例を紹介しました。
この記事でお伝えしたかった要点は
- 後遺障害慰謝料は後遺障害等級に応じた「一定の基準額」がある
- 後遺障害5級に対する補償は「後遺障害慰謝料」と「逸失利益」に分けられる
- 弁護士が交渉をする時に使う慰謝料算定基準の「弁護士基準」といい、慰謝料の相場は最も高い
- 後遺障害慰謝料は個別の事情で増減する
後遺障害5級の後遺障害慰謝料、逸失利益は非常に高額になります。
個別の事情をきちんと主張し、被害者が損をしないような結果を目指さなくてはいけません。
後遺障害5級の後遺障害慰謝料計算についてのQ&A
後遺障害5級の慰謝料相場は?
後遺障害慰謝料は、算定する基準によって違います。自賠責保険の基準:599万円/任意保険の基準:700万円(旧統一基準)/弁護士基準:1400万円です。任意保険基準は、以前は統一された基準が公にされていました。今は任意保険会社ごとに設定され、非公開とされています。
後遺障害5級の逸失利益の計算方法は?
基本の計算式は、<基礎収入 ✖ 労働能力喪失率 ✖ 就労可能年数に対するライプニッツ係数>です。基礎収入は、原則、事故前の被害者の収入です。後遺障害5級の場合は、労働能力喪失率が「79%」なので「0.79」が労働能力喪失率となります。被害者が18歳未満・未就労の場合は、違う計算式を使って算定しますので、注意しましょう。就労可能年数・ライプニッツ係数など詳細は下記にて解説しています。
後遺障害5級ってどんな等級?
5級は1号~8号まであります。片目の失明(もう片方の目は視力0.1以下)/神経系統の機能や精神に著しい障害が残り、軽特に軽易な労務以外服することができないもの/胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外服することができないもの/1上肢を手関節以上で廃したもの・用を全廃したもの/1下肢を足関節以上で失ったもの・用を全廃したもの/両足の足指の全を失ったものが該当します。
基準より後遺障害慰謝料が増額された事例はある?
弁護士基準よりも高い後遺障害慰謝料が認められたケースがあります。判例から、被害者の後遺障害と職業の関連で増額となったものを紹介しています。弁護士基準の慰謝料はあくまで目安であり、増減される可能性があります。
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