弁護士基準の死亡慰謝料|死亡事故の慰謝料、妥当な金額はいくら?
交通事故によって被害者の方が亡くなられた場合、ご遺族は被害者の方に代わって加害者側に賠償金を請求することになります。
中でも死亡慰謝料は、亡くなられたご本人やご遺族の方々の精神的苦痛に対する補償で、辛く悲しい思いをされているご遺族にとっては非常に重要な項目です。
そこでこの記事では、死亡事故の金額の中でも示談交渉の際に被害者側の弁護士が主張する金額について解説していきます。
- 弁護士に依頼した場合いくらの金額を提示してもらえるのか
- 判例などを踏まえるとどのくらいの金額が妥当なのか
ということを知りたい場合は、ぜひご確認ください。
弁護士基準の死亡慰謝料とは?
死亡慰謝料とは?
死亡慰謝料とは、交通事故によって亡くなられた被害者ご本人と、ご遺族の精神的苦痛に対する補償のことです。
突然の事故で命を奪われた被害者ご本人は非常に無念だと思われます。
そして残されたご遺族の方は、どうしようもないほど大きな喪失感や悲しみ、加害者に対する怒りを感じていらっしゃると思います。
お金を受け取ったところで被害者の方が帰ってくるわけではありませんし、それで辛く苦しい思いが癒えるわけではないと思いますが、それでもせめてもの補償として支払われるのが、死亡慰謝料だということです。
遺族にも死亡慰謝料が支払われる?
死亡慰謝料は、交通事故で亡くなられたご本人だけではなく、ご遺族の方にも支払われます。
民法711条によると、死亡慰謝料の対象となるご遺族は基本的に、被害者の父母、配偶者、子だということです。
ただし、兄弟姉妹や祖父母、内縁の妻でも、被害者の方との関係が深く、父母や配偶者、子と同じくらい精神的苦痛が大きいと判断されると、死亡慰謝料の支払い対象となります。
本人 | 交通事故により亡くなられたご本人 |
---|---|
遺族 | 父母、配偶者、子 (兄弟姉妹、祖父母、内縁の妻にも認められる場合も) |
兄弟姉妹、祖父母、内縁の妻を死亡慰謝料の対象とするかについては、加害者側との交渉でもめる可能性もあります。
そのため、父母・配偶者・子以外のご遺族に対する死亡慰謝料も請求したい場合には、事前に弁護士に相談しておくことをお勧めします。
「弁護士基準」とは何のこと?
この記事では、「弁護士基準」の死亡慰謝料をご紹介していきますので、「弁護士基準」についてもご説明します。
弁護士基準とは
示談交渉の際に被害者側の弁護士が提示する金額のこと。
過去の判例をもとに定められている金額であり、妥当性が高い。
交通事故の慰謝料は示談交渉によって決められます。示談交渉で合意した金額が弁護士基準の金額に近いほど、妥当な金額で合意できたということになるのです。
ただしこの金額は、弁護士でないと加害者側に主張するのが難しいです。
どんなに過去の判例や法律のことを理解したうえでご遺族が弁護士基準の金額を主張しても、弁護士ではないからという理由で受け入れてもらえない可能性が高いのです。
弁護士基準を主張できない場合、交通事故の慰謝料は加害者側から提示された金額をベースとして決めていくことになってしまうため、妥当な金額を主張したい場合には、弁護士に交渉を依頼することをお勧めします。
なお、交通事故の慰謝料金額には弁護士基準の他、「任意保険基準」「自賠責基準」という基準もありますので、まとめてご紹介しておきます。
弁護士基準 | 示談交渉の時に被害者側の弁護士が提示する金額 |
---|---|
任意保険基準 | 示談交渉の時に加害者側の任意保険会社が提示する金額 |
自賠責基準 | 交通事故の被害者が受け取ることのできる最低限の金額基準 |
弁護士基準の死亡慰謝料の計算方法は?
弁護士基準の死亡慰謝料はいくら?
弁護士基準での死亡慰謝料の金額は、被害者の方が生前家族内でどのような立場にあったかによって決まります。
一家の支柱 | 2800万円 |
---|---|
母親 配偶者 |
2500万円 |
その他 | 2000万~2500万円 |
弁護士基準の場合は、ご遺族に対する慰謝料も上記の金額に含まれています。
ただし一家の支柱の死亡慰謝料金額については、扶養家族を3人(配偶者・子2人)と想定して設定されています。
そのため、子供が3人以上いるなど、扶養家族が3人を超える場合には、死亡慰謝料の金額が増える可能性があります。
死亡慰謝料が増額される場合とは?
交通事故で亡くなられた方が一家の支柱で扶養家族が多かったという場合以外にも、死亡慰謝料が増額される場合があります。
死亡慰謝料が増額される場合
- ① 事故の悪質性が高い場合
- ② 加害者側に不誠実な対応があった場合
- ③ 遺族が死亡事故を目撃してしまった場合
- ④ 被害者の死を受け、遺族が精神疾患を患った場合
- ⑤ 新婚や幼い子供の死など、被害者や遺族の無念が特に大きいと思われる場合
⑥その他
それぞれの場合について、事例も交えながらご紹介します。
①事故の悪質性が高い場合
加害者の
- 無免許運転
- 飲酒運転
- 故意の信号無視
- 著しい速度違反
など、事故発生に対する加害者の過失が特に大きい場合は、死亡慰謝料が増額される可能性があります。
実際の事例をご紹介します。
主婦兼アルバイト(女・57歳)につき、酒気帯びで、夜間にもかかわらず前照灯を灯火させず、制限速度(時40キロ)を大幅に超過(時速約81キロ)し、たばこの火を消すために灰皿に目を落とした前方不注視の事故につき、本人分2200万円、夫300万円、子3人各200万円、合計3100万円を認めた(事故日平25.4.21 大阪地判28.1.14 交民49・1・1)
出典:『損害賠償額算定基準上巻(基準編)2019』(日弁連交通事故相談センター東京支部)
②加害者側に不誠実な対応があった場合
交通事故により被害者の方が亡くなったにもかかわらず
- 謝罪をしない
- 事故後、適切な救護を行わなかった
など、不誠実な対応が見られる場合も、死亡慰謝料が増額される可能性があります。
実際の事例として、以下のようなものがあります。
大学生(女・19歳)につき、加害者が3件の店で飲酒を重ね仮眠の状態で事故を起こしたこと、救護措置を講じなかったこと、飲酒運転が日常的であったこと、被害者の母は事故後抑うつ状態と診断されていること、次兄は本件事故が遠因となって大学を退学したこと等から、本人分2500万円、父母各200万円、兄2人各100万円、合計3100万円を認めた(事故日平13.12.29 東京地判平18.7.28 交民39・4・1099)
出典:『損害賠償額算定基準上巻(基準編)2019』(日弁連交通事故相談センター東京支部)
③遺族が死亡事故を目撃してしまった場合
幼い兄弟が2人で遊んでいたところ1人が交通事故に遭い、もう1人はその現場を目撃してしまった、という場合は、現場を目撃したご遺族の死亡慰謝料が増額される可能性があります。
事例としては、以下のものがあります。
小学生(女・7歳)につき、加害者が疲労と飲酒の影響による仮睡状態であったことを考慮して、本人分2300万円、父母各250万円、事故時集団登校しており妹の死を目の当たりにした兄2人各150万円、合計3100万円を認めた(事故日平12.11.28 盛岡地二戸支判平17.3.22 判タ1216・236)
出典:『損害賠償額算定基準上巻(基準編)2019』(日弁連交通事故相談センター東京支部)
④被害者の死を受け、遺族が精神疾患を患った場合
突然の事故により大切なご家族を失い、そのショックで精神疾患を患ってしまうという方もいらっしゃいます。
そのような場合には、そのご遺族の死亡慰謝料が増額される可能性があります。
この場合の事例としては、以下のようなものがあります。
被害者(男・9歳)につき、加害者は朝まで量が分からないくらい飲酒し、事故後救護せずコンビニで強力な口臭消しを購入し、衝突まで全く被害者に気がついていなかったにもかかわらず捜査段階ではこれを隠す供述をし、父母が事故後心療内科に通院したことから、基準額の3割増しを相当とし、本人分2750万円、父母各250万円、合計3250万円を認めた(事故日平16.12.2 大阪地判平20.9.26 自保ジ1784・15)
出典:『損害賠償額算定基準上巻(基準編)2019』(日弁連交通事故相談センター東京支部)
⑤被害者や遺族の無念が特に大きいと思われる場合
交通事故により突然命を奪われると、被害者ご自身もご遺族の方も、非常に無念かと思います。
中でも新婚であった場合や幼い子供を残して亡くなられた場合、長年の夢をかなえたばかりだった場合などは、その無念もなおさら大きいことと思います。
そうした場合にも、死亡慰謝料が増額される可能性があります。
具体的な例としては、以下のものがあります。
単身者(男・31歳・会社員)につき、希望していた鉄道会社に就職後、車掌として真面目に勤務していたこと、父母思いの優しい息子であり、結婚を誓っていた交際相手もいたことなどから、2800万円を認めた(事故日平20.1.20 東京高判平22.10.28 判タ1345・213)
出典:『損害賠償額算定基準上巻(基準編)2019』(日弁連交通事故相談センター東京支部)
⑥その他
ここまでご紹介した場合の他にも、
- 職場で重要なポストに就くことが確定していた場合
- 家庭内で介護を担っていた場合
などには死亡慰謝料が増額される可能性があります。
ただしこうした増額は、加害者側保険会社が認めてくれなかったり、増額してもらえても少しだけだったりします。
きちんと増額を認めてもらい、十分に増額してもらうためには、弁護士を通して交渉した方が良いかと思われます。
まとめ|弁護士基準の死亡慰謝料
ここまで、弁護士基準の死亡慰謝料について解説してきました。要点をまとめると、以下のようになります。
ポイント
- 死亡慰謝料は、死亡事故の被害者やご遺族の精神的苦痛に対する補償
- 弁護士基準とは示談交渉で被害者側弁護士が主張する金額で過去の判例をもとにしている妥当性の高い金額
- 弁護士基準の金額は、弁護士でないと主張が難しい
- 死亡慰謝料は、増額される可能性もある
事故により突然ご家族を亡くされて、悲しみや怒り、辛さや不安など様々な感情を抱えられているかと思います。
そのような中で加害者の代理人である保険会社と直接交渉したいという場合もあれば、こんな時にお金の話はしたくない、代理人といえども加害者側の人と話したくないという場合もあると思います。
示談交渉はご遺族が直接行うこともできますし、弁護士に代理を頼むこともできます。
ただ一つ言えることは、示談交渉は一度合意すると、基本的に二度と交渉しなおしたり、追加で賠償請求したりすることはできないということです。
このことを踏まえて、後悔しない、納得のいく示談交渉をしてください。
弁護士基準の死亡慰謝料についてのQ&A
死亡慰謝料とは?
死亡慰謝料とは、交通事故で死亡した本人とそのご遺族の精神的苦痛に対する補償です。ご遺族とは被害者の父母・配偶者・子のことですが、兄弟姉妹や祖父母、内縁の妻でも、被害者との関係が深く、ご遺族と同等の精神的苦痛があると判断されれば、死亡慰謝料の対象になります。
弁護士基準の死亡慰謝料はいくら?
弁護士基準の場合、死亡慰謝料は① 一家の支柱であれば2800万円、② 母親・配偶者であれば2500万円、③ その他の方は2000万~2500万円となります。なお、ご遺族に対する死亡慰謝料もこの金額の中に含まれています。
弁護士基準の死亡慰謝料は増額される?
弁護士基準の死亡慰謝料は、① 事故の悪質性が高い場合、② 加害者に不誠実な態度があった場合、③ 遺族が死亡事故を目撃してしまった場合などに増額されます。ただし、本当に増額されるのか、どの程度増額されるのかは、示談交渉次第になります。