交通事故の慰謝料[治療費編]実費分が相場!保険会社が支払う?
交通事故の損害に対する慰謝料(=損害賠償)は、
- 怪我の治療費用
- 怪我で受けた精神的なダメージに対する慰謝料
- 働けなかった期間の収入補償
などさまざまな損害項目の合計です。そのうち、本記事は「治療費」について解説していきたいと思います。
治療費は加害者加入の保険会社が直接病院に支払う
治療費は保険会社が支払ってくれるのが基本
車を運転する人の多くは、自賠責保険に加えて一般的に任意保険に加入していることがほとんどです。そのため、交通事故の被害として怪我を負った場合、怪我の治療にかかった費用は相手方の任意保険会社が病院に直接支払ってくれるのが基本です。
本来、治療費は交通事故の慰謝料(=損害賠償)の一部として、その他さまざまな損害と合計して一括で支払われるものです。しかし、どの損害も同じタイミングで損害額を算定できるものではありません。ものによっては治療費のように今すぐ受け取りたいというお金もあります。このような被害者の方のお困りに対して任意保険会社は治療費を通院の都度立て替えて慰謝料を先払いする一括対応というサービスをおこなっています。
いつまで治療費を支払ってくれるのか
交通事故の治療費は、完治/症状固定のいずれかのタイミングまでにかかった実費相当分を請求することができます。
治療費の支払い
▼完治したケース
事故日~治療が終了した日までにかかった治療費
▼後遺障害が残ったケース
事故日~症状固定日までにかかった治療費
完治とは、言葉の通り、怪我が完全に治り事故前の体に戻ったことを意味するので、完治したタイミングまでにかかった治療費が請求可能なことはイメージしやすいと思います。
一方、「症状固定」はどうでしょうか。はじめて聞いたという方も多いと思います。症状固定とは、治療をつづけてもこれ以上に症状が良くも悪くもならない状態になったと診断を受けることを意味します。もっと簡単にいうと後遺症が残ったということになります。
交通事故の被害において労働能力に影響がでるような後遺症が残った場合は、後遺障害に認定されることで後遺障害慰謝料と逸失利益を請求することができます。良くも悪くもならないような状態に至り、以降も治療をむやみにつづけるのではなく、後遺障害慰謝料と逸失利益で後遺障害が残った事実に対して損害を補てんしてもらおうという考え方になります。
ここで何をお伝えしたいかというと、後遺障害が残ったら症状固定以降にかかった治療費は請求することができないという点です。まだ治療が必要なのに症状固定としてしまうと症状固定以降の治療費は自己負担となってしまいます。症状固定とするかどうかは、医師と慎重な相談のもと決めることが重要になります。
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自ら治療費を立て替える必要があるとき
加害者が自賠責保険しか加入していない
事故の相手方が自賠責保険しか加入していないと、ご自身で治療費を立て替える必要があります。一括対応は、事故の相手方が「任意保険に加入」している場合のみに受けられる可能性があるサービスです。ご自身で治療費を立替払いした場合は、加害者側に請求して回収する必要があります。請求方法については後ほど解説します。
ご自身にも多く過失割合がある
交通事故の過失割合がご自身にも多くあると保険会社が判断した場合、一括対応のサービスが受けられない可能性があります。過失割合とは、交通事故を起こしてしまった過失(不注意)の度合いを数値で示したものになります。
どちらか一方にしか過失割合がない場合、慰謝料請求は100%加害者側に対して行えばいいので簡単にイメージが付くと思います。しかし、交通事故ではお互いに何らかの過失があって発生することが多いとされています。このような場合、自分の過失割合に応じて損害賠償額から差し引かれる過失相殺がおこなわれます。
ご自身の過失割合が少ない場合、保険会社は被害者としてあつかってくれるため一括対応をしてくれる可能性があります。一方、ご自身の過失割合が多い場合、
- 過失割合が多いと、もはや被害者とは言いがたい
- 交通事故の慰謝料が自賠責保険の範囲内でおさまる可能性が高いため
- 加害者も大きな損害を受けており、過失相殺すると治療費を支払う必要がなくなる
など、はっきりとした理由として言い切れない部分ではありますが、このような点から一括対応が受けられないと考えられています。
<関連記事>過失割合について
治療費の打ち切りをされた後の治療費
一括対応が終了して治療費が打ち切られた後の治療費は、ご自身で立替払いする必要があります。保険会社は治療が完了する頃合いを見計らって、治療の打ち切りを打診してきます。
怪我ごとに治療が完了するまでの目安として「DMK136」というものがあります。
DMK136とは
D1:打撲1ヶ月
M3:むちうち3ヶ月
K6:骨折6ヶ月
保険会社はこのような目安で治療費を打ち切ろうとしてきます。一括対応は保険会社のサービスの一環なので、保険会社が自由に治療費を打ち切ることができます。しかし、このような目安はあくまで目安にしかすぎません。怪我の状態や回復度合いによって治療が完了するまでは人それぞれです。
治療費が打ち切られた方のなかには、打ち切りのタイミングで治療を止めてしまう人がいます。治療が必要なのに治療を止めてしまうと、
- 完治が遅れる
- 怪我が悪化する
- 後遺症(後遺障害)が残る
などの可能性が高まることにつながります。治療費が打ち切られたことは、治療の終了を意味していません。治療が必要なのであれば、立替払いをしてでも治療を継続したほうがいいことがあります。治療費打ち切り後の対応としては以下の点をおさえることをおすすめします。
治療費が打ち切られたら
- 治療が必要であれば自費でも治療を継続すること
- 治療を継続した際は、領収証をなくさないよう大切に保管する
- 治療を継続する必要があることを医学的に証明して保険会社に伝える
その他にも、保険会社と交渉の余地がないか弁護士に相談してアドバイスをもらうのもいいかもしれません。
立て替え分の治療費請求方法は?健康保険は使える?
加害者側に請求する
立て替えた分の治療費は、原則として加害者本人に対して請求します。加害者が任意保険会社に加入している場合は、任意保険会社に対して請求することになります。請求の際には治療費を証明する資料を提出することが求められます。
治療費の立替請求に必要な書類
- 診断書
- 診療報酬明細書
このような資料から実際に治療費の支払いがあったことを証明します。加害者側の自賠責保険に対して治療費を請求する場合は、保険会社が指定する請求資料のセットがあるので確認してみましょう。
加害者本人に請求しても支払ってもらえない・加害者が任意保険会社に加入していないような場合は、加害者が加入する自賠責保険に対して被害者請求をおこないます。もっとも、被害者請求では治療費を含む交通事故の「傷害におけるすべての損害賠償金が120万円まで」が限度額となっているので注意が必要です。
<関連記事>120万円を超える場合のあつかいについて
治療費の立替でも健康保険が使える
治療費を立て替える際に、自分の健康保険を利用することができるのか?という点は気になると思います。結論から言うと、治療費の立て替え払いの際にも健康保険を利用することができます。健康保険が利用できれば、立て替え時の負担が3割に軽減することができます。
立替分は請求してあとから返ってくるといっても、治療費が高額な場合は一時的な立て替えでも経済状況が厳しくなることも考えられます。このような事態を回避するためにも健康保険の利用は有効だと考えられます。
交通事故で健康保険を利用する
- 医療機関に健康保険を利用する旨申し入れる
- 「第三者行為による傷病届」を提出する
- その他の必要書類を提出する
・負傷原因報告書
・事故発生状況報告書
・念書
・損害賠償金納付確約書
・念書
・同意書
・交通事故証明書
第三者行為による傷病届は加入する保険組合に問い合わせたり、協会健保のHPからダウンロードすることができます。参考に「第三者行為による傷病届」はこちらからご覧ください。
まとめ
交通事故の治療費は、実費相当分を加害者側に対して請求することができます。加害者側が任意保険に加入している場合は、通院ごとに一括で保険会社が病院に支払ってくれることがほとんどです。
場合によってはご自身で立替払いした後に加害者側に請求することもあります。立替払いする際はご自身の健康保険を使って負担額を軽減することができるので、健康保険の利用をおすすめします。
交通事故慰謝料・治療費の相場に関するQ&A
交通事故の治療費は誰が払うの?
怪我の治療にかかった費用は相手方の任意保険会社が病院に直接支払ってくれるのが基本です。車を運転する人の多くは、自賠責保険に加えて一般的に任意保険に加入していることがほとんどです。治療費を通院の都度立て替えて慰謝料を先払いする一括対応というサービスです。
交通事故の治療費はいつまで支払ってもらえるの?
交通事故の治療費は、完治/症状固定のいずれかのタイミングまでにかかった実費相当分を請求することができます。症状固定とは、治療をつづけてもこれ以上に症状が良くも悪くもならない状態になったと診断を受けることです。簡単にいうと後遺症が残ったということになります。
被害者が治療費を立て替えなくてはいけない時もある?
① 事故の相手方が自賠責保険しか加入していない、② 被害者自身にも過失が多くある、この2つのケースでは、ご自身で治療費を立て替える必要があります。あるいは、保険会社に治療費を打ち切られた後に治療を継続する場合も、被害者が負担することになります。
被害者が立て替えた治療費を相手に請求する方法は?
① 診断書、② 診断報酬明細書、が治療費を証明する資料として必要です。立て替えた分の治療費は、原則として加害者本人に対して請求します。加害者が任意保険会社に加入している場合は、任意保険会社に対して請求することになります。