交通事故【過失割合9対1】慰謝料相場に納得いかない!過失割合のせい?
交通事故の慰謝料(=損害賠償)に関する示談交渉では、「過失割合」が争点になることが多いです。
過失割合「9対1」のように自分に少しでも落ち度があれば、
- 受け取れる慰謝料が減額される
- 相手に対して支払う慰謝料が発生する
ということが考えられます。
慰謝料がどのくらいの相場となるのか知る上で、過失割合についておさえておくことは大切です。
本記事では、過失割合の基本的な知識、9対1の過失割合となる実例を紹介して、過失割合について詳しく解説していきたいと思います。
交通事故示談でもめる!慰謝料に影響する過失割合
過失割合の基礎知識
交通事故にあったら、怪我をしたり、車が壊れたりするなど、なんらかの損害が発生します。事故によって生じた損害については、事故の相手方に慰謝料などの損害賠償を請求することができます。
しかし、事故原因のすべてが相手だけにあるとはかぎりません。ご自身にも事故を引き起こした原因があるならば、その分の責任を負わなければなりません。
交通事故の当事者双方に事故原因となった過失(不注意)があると認められる場合は、その度合いを分かりやすく数値化した「過失割合」で責任の所在を明らかにします。
過失割合とは
過失の程度を数字で示した事故に対して負うべき責任の割合
過失割合は、「9対1(90:10)」「6対4(60:40)」といった具合に表現されます。
過失割合なぜもめる?自己負担が増える?
過失割合は事故に対してどの程度の責任を取るのか示したものでもあるので、「損害賠償金の負担割合」を示しているとも言えます。過失割合の程度が大きくなればなるほど、負担する額が増えることを意味します。
過失割合の度合いが高まると?
- 自分が受け取る慰謝料が減額される
- 相手が被った損害に対する支払額が増える
過失割合が認められるとこのような事態になるので、示談交渉の際にはもめる原因となります。
自分の損害額から、自分の過失割合に応じた損害額を差し引くことを「過失相殺」といいます。
過失割合は過去の判例が基準になる?
過失割合は、過去に発生した交通事故でおこなわれた裁判例を参考にして、保険会社との話し合い(示談)で決められることになります。裁判例をまとめた書籍を確認して、似たような交通事故がないかがまず調べられます。書籍は以下のようなものがあげられます。
過失割合の認定基準書
「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」
→通称:赤い本
「別冊判例タイムズ38号 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂5版〕」
→通称:判例タイムズ
これらの書籍には、
- 事故類型に対応する「基本の過失割合」
- 過失割合を調整する「修正要素」
が記載されています。
事故類型にあてはめた時、一見おなじような事故でも事故の具体的な状況はそれぞれ異なります。
- 事故当事者が高齢者や幼児だった
- 真っ暗な夜道で事故が起こった
このような状況を調整して過失割合に反映するのが修正要素です。
とはいっても、交通事故の内容はさまざまです。修正要素で調整しても事故類型にぴったり当てはまる事故になるとは言い切れません。これらはあくまで基準であり、実際の事故の内容に応じて過失割合は考慮されることになります。
過失割合9対1で交通事故の慰謝料を計算
過失割合が交通事故の慰謝料などの損害賠償額に影響すると分かったところで、ここからは過失割合が9対1の場合を想定して計算していきたいと思います。
ご自身の過失が「0」でないかぎり、相手に損害が発生していれば過失割合に応じて損害額を支払わなければなりません。自分の過失割合が相手より低くても相手の損害額が大きければ、被害者の立場なのに支払う金額が高額になってしまう可能性も考えられます。このような点を念頭において、慰謝料の計算を確認してみましょう。
事故の当事者甲さん・乙さんの過失割合をそれぞれ、
当事者甲さん:過失割合9
当事者乙さん:過失割合1
として計算してみます。
9対1|当事者甲100万円、当事者乙100万円の損害
事故の当事者甲さんと乙さんの損害額がそれぞれ100万円だったとき、過失割合9対1がどのように影響するのかみてみましょう。
過失割合9対1の慰謝料計算
お互い100万円の損害はどう計算する?
甲 | 乙 | |
---|---|---|
過失割合 | 9 | 1 |
自分の損害 | 100万円 | 100万円 |
請求額 | 10万円 | 90万円 |
自己負担額 | 90万円 | 10万円 |
▼相殺払い▼ | ||
受領金額 | 0円 | 80万円 |
甲さんが請求できる金額は10万円、乙さんが請求できる金額は90万円なので、相殺払いすると乙さんが80万円をうけとることになります。
9対1|当事者甲10万円、当事者乙100万円の損害
事故の当事者甲さんが10万円、乙さんが100万円の損害額だったとき、過失割合9対1がどのように影響するのかみてみましょう。
過失割合9対1の慰謝料計算
損害10万円と100万円はどう計算する?
甲 | 乙 | |
---|---|---|
過失割合 | 9 | 1 |
自分の損害 | 10万円 | 100万円 |
請求額 | 1万円 | 90万円 |
自己負担額 | 9万円 | 10万円 |
▼相殺払い▼ | ||
受領金額 | 0円 | 89万円 |
甲さんが請求できる金額は1万円、乙さんが請求できる金額は90万円なので、相殺払いすると乙さんが89万円をうけとることになります。
9対1|当事者甲100万円、当事者乙10万円の損害
事故の当事者甲さんが100万円、乙さんが10万円の損害額だったとき、過失割合9対1がどのように影響するのかみてみましょう。
過失割合9対1の慰謝料計算
損害100万円と1万円はどう計算する?
甲 | 乙 | |
---|---|---|
過失割合 | 9 | 1 |
自分の損害 | 100万円 | 10万円 |
請求額 | 10万円 | 9万円 |
自己負担額 | 90万円 | 1万円 |
▼相殺払い▼ | ||
受領金額 | 1万円 | 0円 |
甲さんが請求できる金額は10万円、乙さんが請求できる金額は9万円なので、相殺払いすると甲さんが1万円をうけとることになります。過失割合が低いのに、相手の損害額が高額だとこのような可能性もあるということがお分かりいただけたと思います。
過失割合9対1の基準を事例で紹介
ここからは、過失割合が9対1の事例を「判例タイムズ」の基準に沿って確認していきたいと思います。
過失割合の基準となる事故の形態でよくあげられるのは、
- 車 対 車
- 車 対 バイク
- 車 対 歩行者
- 車 対 自転車
このような形態です。9対1の過失割合をそれぞれ確認していきます。
過失割合9対1【車 対 車】
車 対 車における過失割合9対1のケースを確認していきます。
一方が優先道路
参照:判例タイムズ38号【105】
過失割合9対1の車同士の事故類型は、信号のない交差点で一方が優先道路だった場合に発生した車同士の交通事故です。
優先道路を走行する車には徐行義務はありませんが、たとえ優先車でも注意義務が全くないということではありません。したがってこのようなケースにおける基本の過失割合は9対1となっています。
こちらの事故類型での修正要素もあわせて確認しておきます。
過失割合と修正要素
A:優先車、B:劣後車
A | B | |
---|---|---|
基本 | 10 | 90 |
▼修正要素 | ||
[B]明らかな先入 | +10 | – |
著しい過失 | +15 | +10 |
重過失 | +25 | +15 |
一方が優先道路の場合における9対1の過失割合と修正要素は以上のとおりです。
(修正要素について補足)
▼著しい過失
- 脇見運転などによる前方不注視
- 著しいハンドル、ブレーキ操作不適切
- 携帯電話などで通話、操作しながらの運転
- 15㎞以上30㎞未満の速度違反
- 酒気帯び運転 など
▼重過失
- 酒酔い運転
- 居眠り運転
- 無免許運転
- 過労、病気、薬物などの影響がある運転 など
道路外に出るため右折
参照:判例タイムズ38号【149】
つづいて過失割合9対1の車同士の事故類型は、道路外に出るために右折した車両と直進車が衝突した場合の交通事故です。
道路の外へ出入りする車は、他の車の進行を妨げることを禁じられています。しかし、直進してきた車両にも前方注視義務があるので、このようなケースにおける基本の過失割合は9対1となっています。
こちらの事故類型での修正要素もあわせて確認しておきます。
過失割合と修正要素
A:直進車、B:右折車
A | B | ||
---|---|---|---|
基本 | 10 | 90 | |
▼修正要素 | |||
既右折 | +10 | – | |
速度違反 | 15km以上 | +10 | – |
30km以上 | +20 | – | |
著しい過失 | +10 | ||
重過失 | +20 | ||
幹線道路 | – | +5 | |
徐行なし | – | +10 | |
合図なし | – | +10 |
道路外に出るため右折した車両と直進車両の衝突事故の場合における9対1の過失割合と修正要素は以上のとおりです。
(修正要素について補足)
▼幹線道路
通行量の多い国道や一部の都道府県道が想定される
▼徐行なし
車両がただちに停止できない速度で進行
▼合図なし
進路変更の合図がない
過失割合9対1【車 対 バイク】
車 対 バイクにおける過失割合9対1のケースを確認していきます。
黄色信号のバイクと赤信号の車
参照:判例タイムズ38号【162】
過失割合9対1のバイクと車の事故類型は、信号機のある交差点で黄色信号で交差点に進入したバイクと赤信号で交差点に進入した車の衝突事故です。
黄色信号は原則として停止位置を超えての進行が禁じられています。信号無視という点で両車ともに同質ですが、黄色と赤信号での危険性の大小を考慮してこのようなケースにおける基本の過失割合は9対1となっています。
こちらの事故類型での修正要素もあわせて確認しておきます。
過失割合と修正要素
A:黄色信号のバイク、B:赤信号の車
A | B | |
---|---|---|
基本 | 10 | 90 |
▼修正要素 | ||
赤信号直前の進入 | +10 | – |
著しい過失 | +5 | +10 |
重過失 | +10 | +20 |
黄色信号のバイクと赤信号の車の衝突事故における9対1の過失割合と修正要素は以上のとおりです。
(修正要素について補足)
▼赤信号直前の進入
交差点に進入した直後に黄色信号から赤信号に変わった場合
バイクが優先道路
参照:判例タイムズ38号【171】
過失割合9対1のバイクと車の事故類型は、信号のない交差点でバイクが優先道路だった場合に発生した交通事故です。
優先道路を走行するバイクには徐行義務はありませんが、たとえ優先でも注意義務が全くないということではありません。したがってこのようなケースにおける基本の過失割合は9対1となっています。
こちらの事故類型での修正要素もあわせて確認しておきます。
過失割合と修正要素
A:優先車、B:劣後車
A | B | |
---|---|---|
基本 | 10 | 90 |
▼修正要素 | ||
明らかな先入 | +10 | – |
著しい過失 | +10 | +5 |
重過失 | +20 | +10 |
バイクが優先道路の場合における9対1の過失割合と修正要素は以上のとおりです。
過失割合9対1【車 対 歩行者】
車 対 歩行者における過失割合9対1のケースを確認していきます。
黄色信号の歩行者と赤信号の車
参照:判例タイムズ38号【2】
過失割合9対1の歩行者と車の事故類型は、信号機のある交差点で黄色信号で交差点を横断した歩行者と赤信号で交差点に進入した車の衝突事故です。
歩行者の黄色信号は道路の横断が禁じられています。歩行者に対して左右の安全確認義務があるのが一般的なので歩行者にも過失が認められますが、信号無視した車の過失がはるかに大きいとされています。したがってこのようなケースにおける基本の過失割合は9対1となっています。
こちらの事故類型での修正要素もあわせて確認しておきます。
過失割合と修正要素
A:歩行者、B:車
A | B | ||
---|---|---|---|
基本 | 10 | 90 | |
▼修正要素 | |||
[A] | 児童・高齢者 | – | +5 |
幼児・身体障害者等 | – | +5 | |
集団横断 | – | +5 | |
[B] | 著しい過失 | – | +5 |
重過失 | – | +10 |
黄色信号の歩行者と赤信号の車の衝突事故における9対1の過失割合と修正要素は以上のとおりです。
(修正要素について補足)
▼児童
6歳以上13歳未満
▼高齢者
おおむね65歳以上
▼幼児
6歳未満
▼身体障害者等
- 身体障害者用の車いすを通行させている者
- つえを持ち、盲導犬を連れている目が見えない者
- つえを持つ耳が聞こえない者 など
▼集団横断
典型例としては集団登下校
赤信号→青信号の歩行者と赤信号の車
参照:判例タイムズ38号【7】
過失割合9対1の歩行者と車の事故類型は、信号機のある交差点で赤色信号で交差点を横断したあと青信号に変わった歩行者と赤信号で交差点に進入した車の衝突事故です。
交差道路を進行してくる車がいないと見込み横断をしたこのようなケースにおける基本の過失割合は9対1となっています。
こちらの事故類型での修正要素もあわせて確認しておきます。
過失割合と修正要素
A:歩行者、B:車
A | B | ||
---|---|---|---|
基本 | 10 | 90 | |
▼修正要素 | |||
夜間 | +5 | – | |
幹線道路 | +5 | – | |
直前直後横断 佇立・後退 |
+5 | – | |
住宅街・商店街等 | – | +5 | |
[A] | 児童・高齢者 | – | +5 |
幼児・身体障害者等 | – | +10 | |
集団横断 | – | +5 | |
[B] | 著しい過失 | – | +10 |
重過失 | – | +20 | |
歩車道区別なし | – | +5 |
赤信号→青信号の歩行者と赤信号の車の衝突事故における9対1の過失割合と修正要素は以上のとおりです。
(修正要素について補足)
▼夜間
日没時~日出時
過失割合9対1【車 対 自転車】
車 対 自転車における過失割合9対1のケースを確認していきます。
自転車が優先道路
参照:判例タイムズ38号【245】
過失割合9対1の自転車と車の事故類型は、信号のない交差点で自転車が優先道路だった場合に発生した交通事故です。
優先道路を走行する自転車には徐行義務はありませんが、たとえ優先でも注意義務が全くないということではありません。したがってこのようなケースにおける基本の過失割合は9対1となっています。
こちらの事故類型での修正要素もあわせて確認しておきます。
過失割合と修正要素
A:自転車、B:車
A | B | ||
---|---|---|---|
基本 | 10 | 90 | |
▼修正要素 | |||
[A] | 右側通行・左方から進入 | +5 | – |
児童・高齢者 | – | +10 | |
自転車横断帯通行 | – | +5 | |
著しい過失 | +10 | +5 | |
重過失 | +15 | +10 |
自転車が優先道路の衝突事故における9対1の過失割合と修正要素は以上のとおりです。
黄色信号の自転車と赤信号の車
参照:判例タイムズ38号【237】
過失割合9対1の自転車と車の事故類型は、信号機のある交差点で黄色信号で交差点に進入した自転車と赤信号で交差点に進入した車の衝突事故です。
こちらの事故類型での修正要素もあわせて確認しておきます。
過失割合と修正要素
A:自転車、B:車
A | B | ||
---|---|---|---|
基本 | 10 | 90 | |
▼修正要素 | |||
赤信号進入 | +5 | – | |
[A] | 児童・高齢者 | – | +5 |
自転車横断帯通行 | – | +5 | |
著しい過失 | +5 | +5 | |
重過失 | +10 | +10 |
黄色信号の自転車と赤信号の車の衝突事故における9対1の過失割合と修正要素は以上のとおりです。
まとめ
過失割合とは交通事故が発生した責任の度合いを数字で示したもので、慰謝料などの損害賠償の金額に影響することが分かりました。
「怪我をしたのになぜ減額されなければならないのか…」
このように腑に落ちない点があるかもしれませんが、過失が認められるとその分の責任はご自身で負わなければなりません。反対に、自身に過失がないのに認めてしまうと本来は負わなくてもよかった責任を負ってしまうということも意味します。
納得のいく慰謝料を手にするためには、納得のいく過失割合を決定することが重要になります。
交通事故|過失割合9:1の慰謝料Q&A
過失割合とは何ですか?
過失割合とは、過失の程度を数字で示した事故に対して負うべき責任の割合です。交通事故の当事者双方に事故原因となった過失(不注意)があると認められる場合は、その度合いを分かりやすく数値化した「過失割合」で責任の所在を明らかにします。過失割合は、「9対1(90:10)」「6対4(60:40)」といった具合に表現されます。
過失割合の度合いが高まるとどうなるのですか?
① 自分が受け取る慰謝料が減額される、② 相手が被った損害に対する支払額が増える、となります。過失割合は、示談交渉の際にはもめる原因となります。自分の損害額から、自分の過失割合に応じた損害額を差し引くことを「過失相殺」といいます。
過失割合が9:1のときでも被害者が支払う場合がある?
被害者自身の過失が「0」でないかぎり、相手に損害が発生していれば過失割合に応じて損害額を支払わなければなりません。自分の過失割合が相手より低くても相手の損害額が大きければ、被害者の立場なのに支払う金額が高額になってしまう可能性も考えられます。
過失割合が9:1のときってどんな時?
よくある交通事故の形態としては、いくつか例示するならば、車 対 車/車 対 バイク/車 対 歩行者/車 対 自転車、などがあげられるでしょう。車 対 車の事故では、どちらか一方が優先道路だった場合/道路外に出るため右折した場合などが該当します。車 対 バイクであれば、黄色信号のバイクと赤信号の車/バイクが優先道路、など様々なケースがあげられます。交通事故の形態によっても変わります。