交通事故の過失割合|慰謝料相場でもめる理由!納得いかない…を回避!
自分に事故原因はないはずなのに過失割合を主張されて困っている…
保険会社が主張する過失割合に納得できない!
過失割合がそもそもよく分からない…
このような疑問や不安をお持ちではないですか?
交通事故の慰謝料など損害賠償の相場を語るうえで、金額に大きな影響を与える「過失割合」の話題は避けて通れません。
過失が少しでも認められてしまうと、
- 自分の損害から過失割合分が差し引かれ、減額してしまう
- 相手に支払うべき慰謝料が増える
このような事態となることが予想されます。
慰謝料相場がどのくらいなのかを知るには、過失割合に関する正しい知識が欠かせません。交通事故の損害賠償問題を納得して終えられるように、過失割合についての知識を深めていきましょう。
交通事故における過失割合の基礎知識
過失割合とは?
交通事故で被った治療費や収入減などの損害は、事故の相手方に慰謝料をふくむ損害賠償を請求することができます。事故原因がすべて相手だけにある場合は、相手にすべての損害を請求すればいいので分かりやすいです。
しかし、交通事故は一方だけに原因があるものばかりではありません。事故の当事者がお互いに何らかの原因があって交通事故が発生した場合、その分の責任は自分自身で負う必要があります。
交通事故を引き起こしたお互いの過失(=不注意)の程度を明瞭に数値化したのが「過失割合」です。過失割合によって交通事故の責任の所在があらわされ、損害を公平に分担する役割をもっています。
過失割合とは
事故当事者が事故に対してそれぞれ負うべき責任の割合
過失割合は「10対0(100:0)」「9対1(90:10)」「7対3(70:30)」のように表現されるのが一般的です。
過失割合は誰が決める?過去の裁判例が基準
過失割合は、事故の相手方が加入する保険会社が過去の裁判例をもとに検討した結果を通知してくるのが一般的です。過去の裁判例は書籍に集約されており、以下のような書籍が代表的です。
過失割合の基準書
✔民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(赤い本) ✔別冊判例タイムズ38号 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂5版〕(判例タイムズ) |
このような裁判例がまとめられた書籍から、似たパターンの事故であるかどうかがまず調べられます。大まかに類似する事故であれば、その事故類型に応じた「基本の過失割合」が確認されます。
つづいて、事故類型ごとに設定された過失割合を調整する「修正要素」がないか確認されます。
修正要素とは、個別の事故状況に対応するためのものです。
たとえば、
- 著しい速度違反があった
- 事故の当事者が幼い児童だった
- 夜中に起こった事故だった
などになります。大まかに事故類型で分類したあと、それぞれの事故状況を反映して過失割合を調整するのが修正要素です。
修正要素によって事故状況に応じて過失割合を調整するとはいっても、世の中で起こりうるすべての事故を基準書が網羅しているわけではありません。基準書はあくまで基準にすぎず、実際の事故状況に応じて過失割合は慎重に検討されることになります。
過失割合はいつ決まる?
相手方の保険会社が過失割合を検討して通知してくるとはいえ、「過失割合を〇対〇にします」と保険会社がいってきた時点が最終決定ではありません。本来は事故の当事者双方が話し合い(示談)で、お互いが納得した時点で決めるべき事柄です。
しかし、交通事故や過失割合の知識がない状態だと、保険会社がいう過失割合を鵜呑みにしてそのまま示談をすすめてしまうことも少なくありません。なにが正しい過失割合なのかは、交通事故の専門的な知識がないと判断がむずかしいものがあります。過失割合について納得できなかったり、疑問がある場合は、交通事故の専門知識をもつ弁護士に相談することをおすすめします。
過失割合は慰謝料相場に影響するからもめる?計算方法を解説
交通事故慰謝料を増減させる過失割合
過失割合は事故に対する責任の度合いを示しているので、「損害賠償金の負担割合」も示しています。過失割合の程度が大きければそれだけ負担額は増えますし、過失割合の程度が小さければ負担額は抑えられます。事故の当事者はできれば自身の過失割合が少ないほうがいいと考えるのも当然なので、もめごとに発展するケースが多くみられます。
過失割合が与える影響
- 自分が手にする慰謝料などが減額する
- 相手に対して支払う慰謝料などが増える
過失割合を反映!慰謝料の計算方法
自身の損害賠償額に対して過失割合を反映させることを「過失相殺」といいます。計算式はつぎのようにあらわされます。
慰謝料に過失割合を反映
損害賠償の総額 × (1 – 損害賠償請求者の過失割合)
過失が一切ない場合は事故の相手方に損害のすべてを請求することができますが、何らかの過失がある場合は自身の過失割合分が損害額から減額されることになります。損害賠償の総額から自身の過失割合分を差し引くことで、損害を公平に分担することができるという考え方に基づいています。
過失割合を反映する計算式だけをみてもイメージしづらいと思うので、具体的な金額を想定して解説してみたいと思います。
計算の具体例
自身の損害総額が[100万円]、自身の過失割合が[3]のケース
100万円 × (1 – 0.3)=70万円 |
ご自身が受け取れる損害賠償の金額は、過失割合に応じてこのように減額されることになります。
注意!自賠責保険における過失割合の扱い
交通事故の慰謝料など損害賠償を算定するにあたって用いられる基準は、自賠責基準/任意保険基準/裁判・弁護士基準の3つがあげられます。ここまで慰謝料などの損害賠償に影響する過失割合の計算方法は、任意保険基準と裁判・弁護士基準によるものになります。
<関連記事>慰謝料の3つの算定基準
自賠責基準における過失割合の反映は、これらとは異なる計算方法が用いられることになるので注意が必要です。
自賠責基準と過失割合
- 7割未満の過失の場合は過失相殺されない
- 7割以上の過失割合でも減額割合が実際の過失割合より低く過失相殺される
自賠責基準ではこのような特徴がみられます。減額割合についてもうすこし具体的にみてみましょう。こちらの表をご覧ください。
過失割合 | 減額割合 | |
---|---|---|
後遺障害 または 死亡 |
傷害 | |
7割未満 | 減額なし | 減額なし |
7割以上 8割未満 |
2割減額 | 2割減額 |
8割以上 9割未満 |
3割減額 | |
9割以上 10割未満 |
5割減額 |
自賠責保険は被害者に対して最低限の補償をおこなうものです。たとえ過失割合が大きかったとしても損害を受けた被害者なのであれば最低限度の補償を受けることができます。
納得いかない過失割合を回避するポイント
客観的な証拠で過失割合を主張
保険会社から提示された過失割合に納得いかない場合は、「客観的な証拠」にもとづいて過失割合を主張していくことになります。過失割合に関する争いは、事故発生時の状況について当事者双方の認識の違いから生じることが原因だと考えられます。このような認識の違いを埋めていくために、客観的な証拠が重要になります。主張に用いられる客観的な証拠としては以下のようなものがあげられます。
主張の根拠になる資料
- 警察が作成する実況見分調書・供述調書
- ドライブレコーダーの記録
- 事故現場の写真
- 当事者双方の車体などの状態が分かる写真
このような客観的証拠にもとづく主張によって、過失割合の決定に有効に働きかけることができます。
10対0/9対1/8対2/7対3の過失割合の判例紹介
過失割合がもつ意味や与える影響について整理できたところで、判例を確認して具体的どのような事故でどのくらいの過失割合になるのか確認していきたいと思います。
- 10対0
- 9対1
- 8対2
- 7対3
から一つずつ事例をあげて解説します。
過失割合10対0の判例
過失割合<10対0>の代表的な事例を紹介します。
事故態様別に10対0の過失割合を知る
参照:判例タイムズ38号【157】
基本の過失割合が10対0となるような事故類型はこのとおりです。道路に駐停車中の車両に、後方から来た車両が衝突した車同士の交通事故です。
道路交通法上の義務を守った状態で駐停車していた車両は事故を回避しようがないといえます。このような点を考慮すると、後方から追突した車両に100%の過失があるとされています。
10対0の過失割合
A:追突車、B:被追突車
A | B | ||
---|---|---|---|
基本 | 100 | 0 | |
▼修正要素 | |||
[A]速度違反 | 15km以上 | +10 | – |
30km以上 | +20 | – | |
著しい過失 | +10 | +10 | |
重過失 | +20 | +20 | |
[B]退避不能 | +10 | – | |
視認不良 | – | +10 | |
駐停車禁止場所 | – | +10 | |
[B]非常点滅灯等の不灯火等 | – | +10~20 | |
[B]駐停車方法不適切 | – | +10~20 |
こちらの事故類型に対する基本の過失割合は10対0ですが、修正要素に応じて過失割合は調整されます。
修正要素の内容解説
▼著しい過失
- 脇見運転などによる前方不注視
- 著しいハンドル、ブレーキ操作不適切
- 携帯電話などで通話、操作しながらの運転
- 15㎞以上30㎞未満の速度違反
- 酒気帯び運転 など
▼重過失
- 酒酔い運転
- 居眠り運転
- 無免許運転
- 過労、病気、薬物などの影響がある運転 など
▼退避不能
故障ややむを得ない理由で駐停車していた
▼視認不良
降雨、濃霧、夜間で街頭がない暗い場所
過失割合9対1の判例
過失割合<9対1>の代表的な事例を紹介します。
事故態様別に9対1の過失割合を知る
参照:判例タイムズ38号【105】
基本の過失割合が9対1となるような事故類型はこのとおりです。信号機のない交差点で、一方が優先道路である場合に衝突した車同士の交通事故です。
優先道路を走行する車両は徐行する義務が課せられていないものの注意義務がないという意味ではありません。このような点を考慮すると、優先道路を走行する車両に対しても10%の過失があるとされています。
9対1の過失割合
A:優先車、B:劣後車
A | B | |
---|---|---|
基本 | 10 | 90 |
▼修正要素 | ||
[B]明らかな先入 | +10 | – |
著しい過失 | +15 | +10 |
重過失 | +25 | +15 |
こちらの事故類型に対する基本の過失割合は9対1ですが、修正要素に応じて過失割合は調整されます。
<関連記事>過失割合9対1について
過失割合8対2の判例
過失割合<8対2>の代表的な事例を紹介します。
事故態様別に8対2の過失割合を知る
参照:判例タイムズ38号【114】
基本の過失割合が8対2となるような事故類型はこのとおりです。信号機のない交差点で、直進車と右折車が衝突した車同士の交通事故です。
交差点を右折する車両は、直進車の進行を妨害することを禁じています。しかし、直進車も交差点に進入する際に安全な速度や方法で走行する義務が課せられています。このような点を考慮すると、直進する車両に対しても20%の過失があるとされています。
8対2の過失割合
A:直進車、B:右折車
A | B | ||
---|---|---|---|
基本 | 20 | 80 | |
▼修正要素 | |||
既右折 | +20 | – | |
速度違反 | 15km以上 | +10 | – |
30km以上 | +20 | – | |
著しい過失 | +10 | +10 | |
重過失 | +20 | ||
徐行なし | – | +10 | |
直近右折 | – | +10 | |
早回り右折 | – | +5 | |
大回り右折 | – | +5 | |
合図なし | – | +10 |
こちらの事故類型に対する基本の過失割合は8対2ですが、修正要素に応じて過失割合は調整されます。
修正要素の内容解説
▼既右折
直進車が交差点に進入する時点で、右折車が右折しきっているまたはそれに近い状態
▼徐行なし
車両がただちに停止できない速度で進行
▼直近右折
直進車の近くで右折
▼早回り右折
交差点の内側に近寄らないで右折
▼大回り右折
あらかじめ道路の内側に寄らずに右折
▼合図なし
進路変更の合図がない
<関連記事>過失割合8対2について
過失割合7対3の判例
過失割合<7対3>の代表的な事例を紹介します。
事故態様別に7対3の過失割合を知る
参照:判例タイムズ38号【153】
基本の過失割合が7対3となるような事故類型はこのとおりです。進路変更をおこなった先行車両と直進する後続車両が衝突した車同士の交通事故です。
車線変更をみだりにおこなうことが禁じられています。しかし、後続車両にも前方を注視する義務が課せられています。このような点を考慮すると、後続の直進車両に対しても30%の過失があるとされています。
7対3の過失割合
A:後続直進車、B:進路変更車
A | B | ||
---|---|---|---|
基本 | 30 | 70 | |
▼修正要素 | |||
[A]速度違反 | 15km以上 | +10 | – |
30km以上 | +20 | – | |
[A]初心者マーク等 | – | +10 | |
著しい過失 | +10 | +10 | |
重過失 | +20 | +20 | |
進路変更禁止場所 | – | +20 | |
[B]合図なし | – | +20 |
こちらの事故類型に対する基本の過失割合は7対3ですが、修正要素に応じて過失割合は調整されます。
▼初心者マーク等
初心者マークなどをつけている後続車がいた場合、進路変更に際しては注意義務が加重される
<関連記事>過失割合7対3について
まとめ
過失割合とは「事故の責任度合いを数値化し、慰謝料などの損害賠償に反映するもの」であることが分かりました。ご自身が犯してしまった過失はご自身で責任を負う必要があります。
しかし、相手方から提示のあった過失割合は事故の事実に見合ったものになっているでしょうか。負う必要のない責任まで負ってはいませんか?保険会社の言うことだから間違いないだろうと鵜呑みにしてしまっていることも少なくありません。
交通事故の慰謝料相場を知るうえで過失割合をきちんと理解しておくことは「適正な金額」を得る道にもつながります。もっとも、過失割合は交通事故の専門知識がないと本当に正しいものなのか判断することがむずかしいです。保険会社と対等に話し合いをすすめていくためには、交通事故の知識が豊富な弁護士にあらかじめ相談しておくことをおすすめします。
交通事故の慰謝料相場をめぐる過失割合のQ&A
過失割合とは何のことですか?
過失割合とは、事故当事者が事故に対してそれぞれ負うべき責任の割合のことです。交通事故を引き起こしたお互いの過失(=不注意)の程度を明瞭に数値化したものです。過失割合によって交通事故の責任の所在があらわされ、損害を公平に分担する役割をもっています。
過失割合はどのように決まりますか?
過失割合は、事故の相手方が加入する保険会社が過去の裁判例をもとに検討した結果を通知してくるのが一般的です。手順としては、似たパターンの事故であるかどうかがまず調べられます。大まかに類似する事故であれば、その事故類型に応じた「基本の過失割合」が確認されます。つづいて、事故類型ごとに設定された過失割合を調整する「修正要素」がないか確認されます。
過失割合は慰謝料の金額に影響する?
過失割合は事故に対する責任の度合いを示しているので、「損害賠償金の負担割合」も示しています。過失割合の程度が大きければそれだけ負担額は増えますし、過失割合の程度が小さければ負担額は抑えられます。
納得いかない過失割合を回避するポイントは?
客観的な証拠で過失割合を主張しましょう。例えば、① 警察が作成する実況見分調書・供述調書、② ドライブレコーダーの記録、③ 事故現場の写真、④ 当事者双方の車体などの状態がわかる写真、などが主張の根拠になる資料としてあげられます。