交通事故の慰謝料|労災と自賠責は併用可能?補償内容の違いは?
通勤中や勤務中に交通事故に遭うと、労災保険から補償を受けることができます。
「労災」という言葉はよく聞くし知っているけれど、詳しい補償内容や手続きは知らない、という方も多いのではないでしょうか。
労災保険の補償内容は?
労災保険と自賠責保険両方から補償を受けることはできる?
労災保険の補償を受けるための手続きは?
そこでこの記事では、交通事故に遭った場合の労災保険の利用について、詳しく解説していきます。
交通事故|労災保険の補償内容は?
労災保険から補償される内容は?
労災保険とは
労働者が仕事や通勤が原因で負傷した場合、病気になった場合、死亡した場合に、その補償を行う保険。
通勤中や業務中に交通事故に遭うと、労災保険からその損害に対する補償が支払われます。
労災保険から受けることのできる補償内容は、以下の通りです。
補償 | 内容 |
---|---|
療養給付 | 治療に関わる補償 |
休業補償給付 | 休業に対する補償 |
休業特別支給金 | |
傷病補償年金 | |
傷病特別支給金 | |
傷病特別年金 | |
障害特別支給金 | 後遺障害残存に対する補償 |
障害特別年金/一時金 | |
障害補償給付 | 後遺症により得られなくなった収入に対する補償 |
遺族特別支給金 | 被害者死亡に対する補償 |
遺族特別年金 | |
遺族補償年金 | 死亡により得られなくなった収入に対する補償 |
葬祭料 | 葬儀等の費用の補償 |
傷病補償年金・傷病特別支給金・傷病特別年金は、
- 治療開始から1年6ヶ月経っても怪我が治っておらず、
- けがに対して傷病等級が認定された
場合に、休業補償給付・休業特別支給金から切り替わる形で支給され始めます。
治療から1年6カ月たっても怪我が治っていないものの、傷病等級には認定されなかったという場合は、引き続き休業補償給付・休業特別支給金が支給され続けます。
労災保険では慰謝料はもらえない?
交通事故というと、慰謝料を請求できる、というイメージがある方も多いと思います。
慰謝料とは、「交通事故で身体が傷つけられたことを原因として発生した精神的苦痛に対する補償」のことです。
実は労災からの補償には、慰謝料は含まれていませんので、ご注意ください。
「障害特別支給金」や「障害特別年金/一時金」、「遺族特別支給金」や「遺族特別年金」は、慰謝料と同じように思えるかもしれません。
しかしこれは、労災福祉の観点から給付されるものであり、慰謝料とは別物です。
労災保険の保険金を受け取る手続きは?
労災の各補償を受けるためには、労働基準監督署に以下の書類を提出する必要があります。
補償項目 | 提出書類 |
---|---|
療養給付 | 療養補償給付たる療養の給付請求書 |
休業補償給付 休業特別支給金 |
休業補償給付支給請求書 |
傷病補償年金 傷病特別支給金 傷病特別年金 |
傷病の状態等に関する届 |
障害補償給付 障害特別支給金 障害特別年金/一時金 |
障害補償給付支給請求書 診断書 添付資料 |
遺族補償年金 遺族特別支給金 遺族特別年金 |
遺族補償年金支給請求書 死亡年月日を証明する資料 死亡した方と請求者の関係を証明する資料 請求者が死亡した方の収入によって生計を立てていたことを証明する資料 |
葬祭料 | 葬祭料請求書 |
提出する資料は、厚生労働省のHPからダウンロードできます。
資料提出のタイミングは?
療養補償給付たる療養の給付請求書
病院での治療や薬局での処方が終わり、治療にかかった金額が確定してから提出します。
休業補償給付支給請求書
休業が長引く場合には、ひと月ごとに提出します。
傷病の状態等に関する届
治療開始から1年6カ月たっても怪我が治っていない場合に提出します。傷病等級に該当するかどうかの審査も、この資料を提出することによって行われます。
障害補償給付支給請求書など
交通事故によるけがに対して「症状固定」の診断を受けたら提出します。症状固定とは、これ以上治療を続けても大幅な改善は期待できないとされることです。
遺族補償年金支給請求書
被害者の方が亡くなり、亡くなったことや亡くなった日時などを証明できる資料が用意できるようになったら提出します。
葬祭料請求書
遺族補償年金支給請求書と同じタイミングで提出します。
労災保険と自賠責保険は併用できる?
労災保険と自賠責保険の違いは?
通勤や勤務中の事故以外の交通事故では、加害者が加入している自賠責保険や任意保険から損害賠償金が支払われます。
労災保険と自賠責保険や任意保険の違いは、以下のようになります。
労災保険
通勤中や勤務中に交通事故に遭った労働者に対して、国からの補償として保険金を支払う
自賠責保険・任意保険
交通事故全般の被害者に対して、加害者からの損害賠償金として、保険金を支払う
つまり、労災保険から支払われる保険金は国からの補償で、自賠責保険や任意保険から支払われる保険金は加害者からの賠償金だということです。
労災と自賠責両方から保険金を受け取れる?
労災保険からお金を受け取っても、それは国からの補償金であり、加害者からの賠償金ではありません。
そう考えると、たとえ労災保険からお金をもらえても、加害者からも賠償金を払ってもらわないと納得できない、という方も多いのではないでしょうか。
ご安心ください。
労災保険から保険金を受け取り、なおかつ加害者の自賠責保険や任意保険から保険金を受け取ることは可能です。
ただし、労災保険と自賠責保険・任意保険を併用する場合には、金額の調整が行われるため注意してください。
労災と自賠責の金額調整とは?
労災保険の支給項目と自賠責保険・任意保険の支払項目の中には、補償の対象が異なるものもあれば同じものもあります。
補償の対象が異なる項目
労災保険
- 障害特別給付金、障害特別年金/一時金
- 遺族特別支給金、遺族特別年金
自賠責保険・任意保険
- 入通院慰謝料
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
上記の項目は、お互いに代わりになる項目がないため、それぞれ満額受け取れます。
それに対し、補償の対象が同じ項目は以下の通りです。
補償対象が同じ項目
治療にかかる費用の補償
- 労災:療養給付
- 自賠責・任意:治療関係費
休業による損害の補償
- 労災:休業補償給付、休業特別支給金、傷病補償年金、傷病特別支給金、傷病特別年金
- 自賠責・任意:休業損害
後遺障害により得られなくなった将来の収入の補償
- 労災:障害補償給付
- 自賠責・任意:後遺障害逸失利益
死亡により得られなくなった将来の収入の補償
- 労災:遺族補償年金
- 自賠責・任意:死亡逸失利益
葬儀・通夜などの費用
- 労災:葬祭料
- 自賠責・任意:葬祭費
これらの項目は何に対する補償なのかが同じなので、労災と自賠責・任意保険からそれぞれ満額もらってしまうと、二重取りすることになります。
そのため、以下のように金額の調整が行われます。
金額調整
労災からの金額と自賠責・任意保険からの金額のうち、高額の方を採用
↓↓
- 先に低い方の金額を受け取っていれば、もう一方から足りない金額を受け取る。
- 先に高い方の金額を受け取っていれば、もう一方からはその補償金は受け取れない。
労災と自賠責を併用する方法は?
労災保険と自賠責・任意保険を併用する場合、先にどちらの手続きをしなければならないということはありません。
ただ、補償対象が同じ項目の金額が自賠責・任意保険の方が高くなることが多いです。
そのため、金額調整のしやすさから厚生労働省は、自賠責・任意保険から先に手続きをすることを勧めています。
まとめ|労災と自賠責両方から保険金をもらいたい
ここまで、労災保険の支払内容と手続き方法、自賠責・任意保険との併用について解説してきました。要点をまとめると、以下のようになります。
ポイント
- 労災保険とは、通勤・勤務中に事故に遭った労働者に対する補償をする保険
- 労災保険に保険金を請求するためには、労働基準監督署に必要資料を提出する
- 労災保険と自賠責・任意保険の併用は可能
労災保険と自賠責・任意保険を併用すると、
- 補償対象が同じ項目は、より高い方の金額を受け取れる
- 労災保険だけを利用した場合には受け取れない項目、自賠責・任意保険だけを利用した場合には受け取れない項目を受け取ることができる
という点がポイントです。
労災保険の補償内容は、項目の名前も同じようなものが多いですし、それぞれ提出資料が決まっているので、手続きが難しそう、面倒くさそうに見えるかもしれません。
しかし、労災保険と自賠責・任意保険を併用すると、上記のようなメリットがあります。
通勤・勤務中に事故に遭われた場合には、労災保険だけ、自賠責・任意保険だけを利用するのではなく、両方を利用することをお勧めします。
交通事故の労災補償についてのQ&A
労災でもらえる給付金は?
交通事故が労災と認定されると、① 治療費等の補償、② 休業に対する補償、③ 後遺障害残存に対する補償、④ 後遺症によって得られなくなった収入に対する補償、⑤ 被害者死亡に対する補償、⑥ 死亡により得られなくなった収入に対する補償、⑦ 葬儀費等に対する補償をうけることができます。
労災と自賠責保険の違いは?
労災と自賠責保険では、その目的が違います。労災保険は、「通勤中や勤務中に交通事故に遭った労働者に対して、国からの補償として保険金を支払う」ものです。これに対して自賠責保険は、「交通事故の被害者に対して、加害者からの損害賠償金としての保険金を支払う」ものです。
労災と自賠責両方から補償を受けられる?
労災と自賠責保険両方から保険金を受け取ることは可能です。ただし、同じ項目について二重で保険金をもらうことはできないため、その場合は金額の調整が行われます。